南米植物文化研究ノート

南米の植物にまつわるあれこれ。個人的な研究の記録です。

アルゼンチンから来ました。

ハナニラ Ipheion uniflorum ヒガンバナ科ハナニラ

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 すっかり春めいて、ソメイヨシノのつぼみのふくらみがわかる夜に、散歩道で撮った写真です。薄暗い中、星のようにぼおっと光っていました。ニラに似た葉の植物で、かわいい青~白っぽい花が咲きます。ずいぶん前からいたるところで見かけるので、てっきり雑草だと思っていたのですが、球根がふつうに販売されているので驚きました。ただ、抜いたはずなのにまだ増えるとか、駆除方法を知りたいというネット上の意見も見たので、かなり生命力のつよい花と思われます。

 

 原産地がアルゼンチンとAPGスタンダード牧野植物図鑑に書かれていたので、現地ではなんと呼んでいるのだろうと調べてみたら、”Ipheion”のほか、"Estrella de primavera(春の星)", "Flor de estrella(星の花)"などがあがっていました。和名は、「全草を傷つけると」とニラのような香りがすることからつけられたそうです。野菜の方のニラの花も白くてかわいいので、今度写真を撮ったらお見せします。図鑑ではハナニラギョウジャニンニクと同じページに掲載されていました。東北地方の郷土料理や、アイヌ語でキトピロと呼ばれる香りの強い野菜です。

 

 むむ、それならば、こちらもひょっとして食べられるの?と思って調べてみたら、フランス語のページがヒットしました。別名「インカのニンニク(Ail des Incas)」と呼ばれ、サラダの香りづけに使われると出てきました。でも、さらに調べてみると、観賞用は有毒なので食べてはだめなのだそう。ニラの一種であるハナニラと、観賞用のハナニラがどうやら混同されているようです。

 

shufuse.com

  そういえば、ギョウジャニンニクと有毒の植物とをまちがえて食べてなくなる方のニュースを春先にはときどき聞くので、要注意の仲間のようです。野草はその土地をよく知った方の採ったものか、専門家に教えていただいての利用がよさそうです。くれぐれもお気をつけて。

 

www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp

 

 

【植物園紀行その1】小石川植物園(改題)

 今年になってから書き始めたこのブログですが、学期中は本業が忙しく、なかなか更新できていません。マイペースな更新になりますが、暖かい目で見守っていただけると幸いです。今回は(も)番外編で、植物園のお話です。

 

小石川植物園とは

 小石川植物園は東京の白山にあります。板橋と三田~今では横浜も結ぶ都営三田線の駅を降りて白山通りを渡り、住宅街のなかの坂道を登ってまた少しくだったところにあります。正式な名称は東京大学大学院理学研究科附属植物園。簡単にいえば東大の附属機関であり、市民向けに公開もされている植物園なのです。東大が創設された1877年(明治10年)に同大学の付属施設となりました。地理的にも、地下鉄の春日または本郷三丁目にある赤門で有名な東京大学に徒歩で移動できる距離です。

 

 正門を入って順路にそってソテツなどを眺めながら少し歩くと、まずパンパス・グラス(Cortaderia selloana)が迎えてくれます。英語で「パンパの草」。日本のススキとは明らかに姿がちがいますが、白い穂が美しい。アルゼンチンのパンパを想像させてくれる名前です。

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 左手に本館(非公開)があります。受付でもらう案内図によれば、研究室、事務室のほか、「月昔」葉標本(さくようひょうほんー字が出ませんでした。簡単に言うと押し花と同じ方法で作った標本)約70万点、植物学図書約2万冊があり、研究に活用されているとか。本館向かいにシダ園、その奥に柴田記念館があります。こちらではつい最近まで、2011ねんの震災の津波後に現れた植物を描いた植物画の展示が行われていました。植物園発行の植物画カードや絵葉書、冊子などはこちらで購入できます。つづきにあるのは温室。かなり長いこと整備されていた記憶がありますが、2019年竣工で、現在は10:00-15:00のあいだ一般公開されています。

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 熱帯・亜熱帯地域の1400種が栽培されており、小笠原諸島の絶滅危惧植物の保護増殖事業もこのなかでおこなわれています。写真右は、夏の暑さに耐えられない植物のための冷温室です。

 

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 温室内のアメリカ大陸出身の植物ということでは、写真の(ボケてしまっていますが)キンゴウカン(Acacia farnesiana)、スペイン語で"Clavel del aire"ー風のカーネーションーと呼ばれるチランジア(Tillandsia)などが花を咲かせていました。東南アジア原産の小さな花をつける蘭などもいたるところに… 観光目的の植物園とはちがった、じっくりと植物を観察したい人向けの場所です。

 

 温室を出ると春は桜がきれいな芝生広場がひろがり、その向こうに薬園保存園(元徳川幕府の薬園)ー時代劇に出てくる小石川養生所はここに1722年(享保7年)創設されたとかーがあります。江戸幕府の名を受けた青木昆陽(1698-1769)がサツマイモの試作を行ったことを示す碑もあります。

 薬草園のとなりは生きた植物によって植物の分類体系を理解できるように「主要な科を代表する約500種の維管束植物をほぼエングラーの分類体系に従って配列した」分類標本園などがあります。こういうところが研究・教育施設としての面目躍如たるところ。そのほか温室前あたりには、メンデルのブドウ、ニュートンのリンゴ、園内各所に精子が発見されたソテツや銀杏の木もあるので、お子さんへの科学および性教育にも役立つかもしれませぬ。

 その先は巨大なスズカケノキなどが印象的なうっそうとした森になり、森を抜けると日本庭園が姿を現し、梅園や池、野鳥の遊ぶ湿地などがあります。

 

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旧東京医学校本館

 下の写真の赤い建物は、現在、総合研究博物館小石川分館として利用されている「旧東京医学校本館」(重要文化財)。明治期に建てられたもので、本郷からここに移設されたそうですが、ベルリンなどで学んだかつての東京帝国大学の医学部教授たちが、この建物のなかで教鞭をとったのでしょうか。東京大学医学部の歴史や収集品については、東京駅前の KITTEビル内INTERMEDIATHEQUE

でも知ることができます。一度訪れてみられるといいかもしれません。

 

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 ここが植物園の西の端になるので、あとは踵を返して庭園の中を通り、メタセコイアの林を抜けて正門へ戻ります。東西約750メートル、南北約300メートル、面積約16ヘクタール。起伏にとんだ地形ですので、それなりに散歩のしがいのあるコースかと思います。歩きやすい靴でお出かけください。

 

利用の仕方、開園日などは下記でご確認のほどを。

小石川植物園 (u-tokyo.ac.jp)

入園料500円

 

おまけとごあいさつ

園内は、一切の採取禁止。決まりを守って楽しみましょう~

そして、いつも読んでくださっている皆様、どうぞよいお年をお迎えください。

2022年もマイペースで更新していきたいと思いますので、よろしくお付き合いのほどお願い申し上げます。

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じつはハーブだった「シオザキソウ」

 

マリーゴールドとシオザキソウと東京港

 もうすぐメキシコ以南の国々では死者の日。メキシコやその周辺の地域で飾りつけに使われるオレンジや金色のマリーゴールドの花は、死者をこちらの世界に案内する花なのだそうです。

 

plantasderosita.hatenadiary.jp

 

 このマリーゴールド、種類によっては食用にすることもあるそうなのですが、同じコウオウソウ属の仲間であるシオザキソウ(Tagetes minuta)という帰化植物も、故郷であるペルーなどではハーブとして使われています。

 シオザキソウという名前は、1957年に東京都江東区の塩崎町(現 塩浜)で発見されたことに由来しています。荒れ地や道端などで育ち、マリーゴールドに似た香りがするのでコゴメコウオウソウの別名があります。*1 以前、ある場所でその姿を見たことがありますが、人間の背丈ほどにも茂っていました。

 

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花は小さいが、全体がなかなかの迫力。(2020年10月撮影)

 

 江東区塩浜は埋立地東京湾周辺の埋め立ては、じつは江戸時代に始まっていたそうです。日比谷の「ひび」は海苔の養殖につかう「浅い海中に立てる竹や木の枝」(コトバンク)に由来するそうですが、入江を埋め立てた場所なのだそうです。そして、東京港は、下記の歴史紙芝居(国土交通省関東地方整備局)によると関東大震災をきっかけに整備が始まり、1941年に開港したとのこと。シオザキソウが発見された1957年は、それから16年後です。世界中から海路で運ばれてきた荷物のどこか、または土地整備のどこかの段階でシオザキソウの種がまぎれこんだのでしょうか。想像するとわくわくします。

 

www.pa.ktr.mlit.go.jp

  

ペルー料理とシオザキソウ

 日本でも最近はポピュラーになってきているペルー料理の代表的な一皿にパパ・ア・ラ・ワンカイーナというものがあります。ピリッと辛いクリームソースをゆでたジャガイモにかけた人気の料理です。詳しくは川崎にあるレストランの下記のページを。

 

elcarbon.jp 

 このお料理の、ジャガイモにかかっている黄色っぽいソースと色違いの緑色のオコパ(Ocopa)というサルサ(ソース)に使われるのが、現地ではワカタイ(Huacatay)と呼ばれるシオザキソウなのです。下記のyoutubeで作り方が紹介されていました。(地域によりいろんなスタイルがあるようです。念のため)葉をちぎって使っています。

 


www.youtube.com

 

 ワカタイは、このほかにも鶏肉料理に使ったりしているようです。ペルーだけでなくチリやアルゼンチンでも使われており、HuacatayのほかにChil chil, chinchilla, chilquilla, amor seco, chilquita, suique, suicoなどの呼び名があり、お茶として飲んだり(消化系に効くらしい)、スープの香りづけにしたりもしています。私が旅をしたことのあるアルゼンチンやチリの高地(標高3000~4000m)の地域では、食事にいつもおいしいスープがついていました。高地は空気が薄く、消化機能もさがりがちです。このようなハーブを料理に使うことにはきっと意味があるのでしょう。

  

▼雑草がじつはハーブだった話はこちらにも

plantasderosita.hatenadiary.jp

 

クダモノトケイソウ、またの名を

 

 

ラ・パシオナリア

 ドロレス・イバルリというスペインの女性政治家がいました。スペイン共産党の創立当初からのメンバーで、スペイン内戦後にソ連に亡命し、77年に帰国してからは国会議員も勤め、1989年に93歳で亡くなりました。彼女の筆名かつ代名詞がラ・パシオナリア。

 パシオン(pasión)は英語だと「パッション」、情熱という語義が一番に頭に浮かぶが、「受難」という意味もある。大文字で始めるときは、キリスト教創始者であるイエス・キリストが十字架にはりつけになったこと(殉教)を指す。

 


www.youtube.com

 

 というわけで、ドロレス・イバルリの筆名も「受難者」「情熱の女」などと解釈されるのですが、パシオナリアはトケイソウの花をさす単語でもあります。

 トケイソウはつる性の多年草で、世界に500種類以上あるそうです。主な分布地域は中南米で、特にコロンビアには100種類以上が自生しているほか、北米にも数種、「東南アジア、オーストラリアなどのオセアニアに25種類の固有種が自生して」いるそうです。*1 トケイソウはなんといってもその花の形が独特です。

 

ふしぎな花

 この写真はうちのベランダで咲いたクダモノトケイソウの花です。立体的なめしべを時計の針に見立てたのが「時計草」という和名の由来。荒俣宏先生によると当時の時計(和時計)はいまのものと少しちがっていたそうです。

 

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 一番外側の花びらのようなものは5枚ががく片で5枚が花弁です。交互に見えている外側ががく片。糸のように見えているのは副花冠、葯のうえに5本のおしべと子房、3本のめしべという立体的な構造になっています。おしべは下向きなので、めしべに花粉が着くには何かの媒介が必要。ブラジルでは、セイヨウオオマルハナバチー現地ではママンガーバと呼ばれるーが受粉してくれるそう。*2

 この植物には、よくみると葉の付け根などに蜜を分泌する花外蜜腺があり、虫を引き寄せます。葉の付け根などに透明なつゆが小さくついているのを観察できることがあります。カメムシ、アリ、ハエ、ハチなども寄ってくるので、虫の苦手な方は植えないほうがいいかも?

 

またの名をパッションフルーツ

 

 実はこの植物、最近ではもう一つの名前「パッションフルーツ」のほうで知られています。お菓子やジュースなどで見かけることが増えていますよね。日本国内でも生産者が増えてきていて、スーパーでもたまに生の果実を見かけます。

 アメリカ大陸にやってきた宣教師が、立体的な花の姿をキリストがはりつけにされた十字架に見立てたところから「受難の花 flor de Pasión」と名付けたというのが定説ですが、イエズス会士で博物学者のアコスタは1590年の著書の中でこんなふうに書いています。

 

[この植物は]主の受難のしるしを持ち、釘、柱、笞、いばらの冠、傷などがあらわされているといわれるのだ。たしかにぜんぜん無根拠ではないと考えられるが、それらのものを認めるためには、その姿を思い浮かばせてくれるような、ある敬虔な気持ちが必要である。(増田義郎訳)

 

 

 コロン(スペイン語読みでは。日本では「コロンブス」)のインディアス航海の旅に出るまでの苦労については、子ども向けの伝記などでも有名です。最終的にコロンはスペインのカトリック両王の支援を受けて4度の航海を実現するのですが、2度目からは植民地化事業のための航海だったといわれています。アメリカ(コロンはインディアス=インドと信じていたらしいけれど)大陸の征服は剣と十字架によって行われたと言われていて、軍人(conquistadores コンキスタドーレス)とキリスト教カトリック)の宣教師たちが、先住民の世界を侵略し、鉱物資源(金銀)や労働力ーときには命もーを奪っていきます。この花をキリストの受難の光景と重ねたスペイン人宣教師の思惑はどのようなものだったのでしょう。

 ちなみに、アコスタ自身はいっかんしてこの植物を"granadilla"と呼んでいます。「受難の花」説を定着させた人物がわかったら、またここに付け足していこうと思います。

食べられるのは… 

 最初に世界に500種類以上のトケイソウがあると書きましたが、その実には食べられるものも、食べられないものもあるようです。世界中でもっとも食用にされている種類は、ブラジル、パラグアイ、アルゼンチン北部が原産のPassiflora edulis(edulisはラテン語で「食べられる」という意味)の園芸品種です。

 ほかに実を食べるものとしては、P. quadrangularis L.(オオミノトケイソウ) P.laurifolia L.(ミズレモン)、 P. mollissima Bailey(バナナパッションフルーツ)などがあるそうです*3が、日本でいまのところ栽培され流通しているのはP. edulisの園芸品種です。

 

f:id:rosita:20210829082820j:plain  完熟した実の断面。たねはぷちぷちした歯ごたえがあるが食べられる。


 上の写真のものは、紫クダモノトケイソウ(P. edulis Sims)と黄色クダモノトケイソウ(P. edulis f.)の交配種のようです*4スペイン語圏だと、先に書いたようにスペイン人たちが「小さなザクロ」(granadilla)と呼んだことに由来するグラナディージャ(リャ)と、先住民の言語起源と考えられるMaracuyá(マラクジャ)、Birucuyá, Mburucuyáなどなどがあります。

 南アメリカアンデスやアマゾンの写真を撮ってたくさんの著書も残しておられる故・高野潤のご本を読んでいたら、グラナディリャとマラク*5とを別のものとして記載されていたので、何か呼び分けるポイントがあるのかもしれません。

 なお、パッションフルーツは生食すると(甘)酸っぱいものですが、グラナディージャにはとても甘いものがあって、果皮は黄色からオレンジ色のP. ligularisに当たるそうです。*6 アコスタが上の文章のつづきに、その味は「甘い。甘すぎると感じる者もある(es dulce, y a algunos les parece demasiado dulce) 」と書いているグラナディージャは、どうやらこれのことを指しているのではないかと考えられます。

 今回はフルーツのほうについて書きましたが、花もとても人気があるようです。日本にも18世紀前半には耐寒性のあるブラジル、ペルー原産のカエルレア(P. caerulea)が持ち込まれていて、園芸好きの人たちを楽しませていたようです。米国には国際時計草協会という愛好者団体もあるとか。人生って自分次第でいくらでも楽しみを見つけ出せるものなのだなあ、と面白く感じました。

 

追記 パッションフルーツには食用だけでなく、他にもいろんな使い道があるようです。いつかまた続きを書くかもしれません。

 

www.passiflorasociety.org

 カラー版 - 新大陸が生んだ食物―トウモロコシ・ジャガイモ・トウガラシ (中公新書)

トケイソウ (NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12か月)

 

コロンブス物語 (フォア文庫)

先住民の側の視点も取り入れたコロンブスの物語。

 

 

*1:山方政樹『NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12か月 トケイソウ日本放送協会、2005年

*2:パッションフルーツの受粉!日本と原産国の違いからみた失敗と成功法 - SaintNature - セントネイチャー

*3:「(島田温史「パッションフルーツ (Passiflora edulis) に置け る高品質果実安定生産のための最適環境条件解明に関する研究」(鹿児島大学博士論文)2017年

*4:上記島田論文を参照

*5:高野潤『新大陸が生んだ食物』中公新書、2015年による。スペイン語ではlla,yaをそれぞれリャ、ジャ、ヤと発音することがあるため、高野さんの表記はそのまま使いました

*6:島田、2017年

歳時記から 松葉牡丹

 つくづく名づけの妙を感じるのですが、「松葉牡丹」と書かれて外来の植物だとは思いにくいですよね。葉の形を松葉に見立て、小さいけど華やかな花をボタンに見立てたのはどこのどんな方だったのでしょう。けれどこれもアメリカ大陸原産の植物。

 

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 手元にある『ハンディ版 入門歳時記』*1にはこう書かれていました。

 

スベリヒユ科一年草。ブラジルが原産だが、十九世紀前半にヨーロッパへ渡り、ほどなくオランダ船によって日本へも入ってきた。こぼれ種で毎年咲く美しく丈夫な花なので、今やいたるところで栽培されている。紅色または紫紅色の花がふつうだが、園芸品種には白や黄などがあり、八重咲きのものもある。真夏の晴れた日の日中だけ開き、午後二時ごろにはしぼむ。(中略)乾燥気味の土地を好み日照りに強いので日照草、また爪で茎を切って土に挿しても根づくので爪切草ともいう。

 

 もう真夏ではないと思うのですが、ぎらぎらと太陽が照りつける近所の花壇で元気に咲いていました。今日は10月12日。約530年前のこの日、コロン(スペイン語コロンブスのこと)がアメリカ大陸の島の一つに到着していなかったら、この花との出会いもアメリカ大陸の植民地化もなかったのかもしれません。

 

   公園などでおなじみのこの草も、オランダから来ました。

rosita.hatenablog.com

*1:大野林火監修 俳句文学館編 角川書店 2002年

新しいチリへ ボイェ Boye(Foye)

 学名 Drimys winteri シキミモドキ科

 

 チリではスペイン語でcaneloと呼ばれ*1成長すると20メートルほどにもなる木で、白い花が咲き、紫色の実がなります。ボイェは南米の先住民言語マプズングンでの呼び名。チリ、アルゼンチン南部の温帯雨林に育つ常緑樹。

 

Drimys winteri

ボイェの花 Eric Hunt, CC BY-SA 3.0 <http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/>, via Wikimedia Commons

 

 南米のチリでは、軍政時代に作られた憲法に変わる新しい憲法が作られようとしています。今年(2021年)、そのための議会が、選挙によってえらばれたメンバーにより作られました。メンバーは155人で、男女がほぼ半々、先住民の席が17用意されました。そして、議長に選ばれたのはエリサ・ロンコンというマプチェ人(アラウコ人 araucano,araucanaと呼ばれることも)の活動家であり、ライデン大学やチリ・カトリック大学で博士号を、メキシコのメトロポリタン自治大学では修士号言語学)を取得、大学でも教鞭をとる学者さんです。ちなみに副議長はバルパライソ大学の教授で憲法学が専門のハイメ・バッサ氏。 

 マプチェ人は、スペイン人が16世紀初頭にこの地域にやってくる前のおよそ紀元前450年ごろからチリ中部を中心に暮らしてきた人びとです。狩猟、漁労、採集、野菜栽培などを行っており、15世紀ごろ現在のエクアドルからチリ、アルゼンチン北部にかけて急速に領土を拡張したインカの帝国にも屈せず、スペイン人の征服者とも勇敢に戦ってスペインの植民地時代には自治をかちとりもしました。しかし、1880年頃、アンデス山脈の東側と西側でチリ、アルゼンチンのスペインから独立して建設された両共和国の軍がそれぞれに先住民”討伐”作戦を行った結果、活動範囲が狭まり今に至っています。マプチェ、ウィジチェ、ペウエンチェ、テウエルチェなど、それぞれに特徴的な生活様式をもつ民族集団が共通の言語マプズングン(マプチェ語)を話すようになり、マプチェと総称されるようになったと考えられています。

 マプチェの文化には「マチ machi」という存在があります。多くは女性なのだそうですが、病気の人に対して、その病気の原因がどこにあるかを儀式を通じて見抜き、薬草などを使っていやすという行為で知られています。*2そのマチが儀式のときなどに手にする緑の葉のついた枝があります。

 先日、新憲法制定議会の議長として就任あいさつをするロンコン氏のかたわらに、ロンコン氏と同じスタイルの民族衣装を着た女性がいました。彼女は、フランシスカ・リンコナオというマチです。*3 このときリンコナオ氏が手にしていたのがボイェの枝です。

 

www.lacuarta.c

 

  ボイェの木は強い香りがあり、せんじて痛み止めや傷薬などとしても使われます。実はコショウの代わりに使われることもあるとか。*4また、この木をくりぬいて皮をはり、伝統的な音楽で使用する太鼓クルトゥルンを作ることもある、マプチェの文化に欠かすことのできない樹木です。

 "mapuche"は"mapu"が土地で、"che"が人。土地の人という意味です。人間も含めさまざまな動植物がおりなす生物的な多様性に満ちた土地は、植林やその他の経済的な利益優先の営みによって危険にさらされています。ロンコン氏は就任のあいさつのなかで、この憲法起草議会を「これまでのチリの国民国家が置き去りにしてきた先住民の言語で行われる参加型で透明な議会」、先住民や女性や子どもといった人間の権利と並んで、母なる地球の権利や水の権利を尊重する議論が行われる場にしていくと宣言しました。

 

*1:スペインでは「シナモンの木」を指す

*2:チリ国立図書館のページ

Machis - Memoria Chilena, Biblioteca Nacional de Chile

*3:彼女自身も新憲法制定議会のメンバー。数年前には(政府が恣意的に運用していると批判されている反テロリスト法により自宅拘禁となった経験をもつ。

*4:Centro Cultural Rayen Wekeche Valle de Elikura "Elikurache Kimün Mongen Kimün  Guia introductoria" 2019

エンジェルストランペット【写真】

 フロリポンディオ(Brugmansia arborea)と同じブルグマンシア属のエンジェルストランペットをようやく身近で見ることができたので、写真をはっておきます。リンク先の記事にも書きましたが、毒があるのでお気を付けください。

 

plantasderosita.hatenadiary.jp

 

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