南米植物文化研究ノート

南米の植物にまつわるあれこれ。個人的な研究の記録です。

じつはハーブだった「シオザキソウ」

 

マリーゴールドとシオザキソウと東京港

 もうすぐメキシコ以南の国々では死者の日。メキシコやその周辺の地域で飾りつけに使われるオレンジや金色のマリーゴールドの花は、死者をこちらの世界に案内する花なのだそうです。

 

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 このマリーゴールド、種類によっては食用にすることもあるそうなのですが、同じコウオウソウ属の仲間であるシオザキソウ(Tagetes minuta)という帰化植物も、故郷であるペルーなどではハーブとして使われています。

 シオザキソウという名前は、1957年に東京都江東区の塩崎町(現 塩浜)で発見されたことに由来しています。荒れ地や道端などで育ち、マリーゴールドに似た香りがするのでコゴメコウオウソウの別名があります。*1 以前、ある場所でその姿を見たことがありますが、人間の背丈ほどにも茂っていました。

 

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花は小さいが、全体がなかなかの迫力。(2020年10月撮影)

 

 江東区塩浜は埋立地東京湾周辺の埋め立ては、じつは江戸時代に始まっていたそうです。日比谷の「ひび」は海苔の養殖につかう「浅い海中に立てる竹や木の枝」(コトバンク)に由来するそうですが、入江を埋め立てた場所なのだそうです。そして、東京港は、下記の歴史紙芝居(国土交通省関東地方整備局)によると関東大震災をきっかけに整備が始まり、1941年に開港したとのこと。シオザキソウが発見された1957年は、それから16年後です。世界中から海路で運ばれてきた荷物のどこか、または土地整備のどこかの段階でシオザキソウの種がまぎれこんだのでしょうか。想像するとわくわくします。

 

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ペルー料理とシオザキソウ

 日本でも最近はポピュラーになってきているペルー料理の代表的な一皿にパパ・ア・ラ・ワンカイーナというものがあります。ピリッと辛いクリームソースをゆでたジャガイモにかけた人気の料理です。詳しくは川崎にあるレストランの下記のページを。

 

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 このお料理の、ジャガイモにかかっている黄色っぽいソースと色違いの緑色のオコパ(Ocopa)というサルサ(ソース)に使われるのが、現地ではワカタイ(Huacatay)と呼ばれるシオザキソウなのです。下記のyoutubeで作り方が紹介されていました。(地域によりいろんなスタイルがあるようです。念のため)葉をちぎって使っています。

 


www.youtube.com

 

 ワカタイは、このほかにも鶏肉料理に使ったりしているようです。ペルーだけでなくチリやアルゼンチンでも使われており、HuacatayのほかにChil chil, chinchilla, chilquilla, amor seco, chilquita, suique, suicoなどの呼び名があり、お茶として飲んだり(消化系に効くらしい)、スープの香りづけにしたりもしています。私が旅をしたことのあるアルゼンチンやチリの高地(標高3000~4000m)の地域では、食事にいつもおいしいスープがついていました。高地は空気が薄く、消化機能もさがりがちです。このようなハーブを料理に使うことにはきっと意味があるのでしょう。

  

▼雑草がじつはハーブだった話はこちらにも

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