【番外編】はじめてのサルナシ
銀座にある岩手県のアンテナショップで、サルナシという果物が売られていました。名前は聞いたことがあったけれど、食べたことはなかったので、一パック購入して家で観察。
サルナシActinidia arguta はもとは日本列島および中国東北、ウスリー*1方面に広く分布する野生植物*2。栽培は岩手だけではなく、福島や岡山などでも行われているそうですが、マタタビ科でキウィフルーツの原種であるオニマタタビ Actinidia chinensisとも近縁の植物です。今回購入したのは、岩手県軽米町で栽培されているものですが、軽米町では、”昔は「コガ」と呼ばれ、お菓子のない時代にはおやつのように食べられていた”(下記サイトより)そうです。名前から察するにサルが食べるのはまちがいないですが、クマの好物でもあるそう。
英語名はベビーキウィなどというそうなので、キウィフルーツと比較してみました。スーパーで買ってきた若干大きめのグリーンキウィと。

▲表面に毛はない。 ▼断面
皮はそれほど固くなく、毛もないのでそのまま食べられます。キウィより柔らかい食感で甘く、あとから酸っぱさが追いかけてくる感じ。後味はキウィそっくりでした。今回は実だけしかみられませんでしたが、百科事典によると、つるがとても丈夫なので、いかだなどの材を結んだり、細工にも使われるそうです。
最近は番外編ばかりになっていますが、今年の前半はアルゼンチン北部~米国南部まで広がるNeltuma spp.(各地で名前が異なるので学名で書きます)ー米国ではメスキーテ、南米ではアルガロボ*3、ワランゴ、タク、イボペ、その他たくさんの名前で呼ばれる植物の仲間について、あるところで発表するために調べていました。アルゼンチンの土産物屋に木工品があると、そのなかにはたいていアルガロボの細工物も混ざっています。この話はまた後日。
「民族植物学者によると、呼び名が多ければ多いほど、その植物は文化的重要度が高い」*4のだそうです。ウィキペディアによると、サルナシは、シラクチカズラ、シラクチヅル、コクワ、シラクチ、ヤブナシ等の呼び名があるそう。アメリカ大陸でのアルガロボの文化的重要度もですが、最近であちこちで熊がはみ出して人間の迷惑になっている日本の野山についても、もっと知りたいなと思わされました。
長生百薬とサイエンスガーデン
沖縄の食事とオカワカメ
与那国島から石垣島を回る前は、那覇と読谷村をツアーで回っていました。今回沖縄に行くことになったのは、タイヨガを4年ほど習っている先生のつながりで参加させてもらった臨床タイ医学研究会のツアーがあったからです。前回はタイへのツアーに参加させてもらいましたが、沖縄は世界でも数少ないブルーゾーン(百歳以上の長寿者が多い)がある日本で唯一の地域。その秘訣を探り、タイの伝統医学(マッサージやヨガ、食事などを包括した)との共通点を探る勉強会を経ての二泊三日の旅でした。
ツアーでうかがった場所のひとつは民謡を聞きながら食事もできる島唄 やーにんじゅ - 沖縄料理島唄ライブ酒場で、お料理がとても豊富でした。豚肉、豆腐、海藻、さまざまなお野菜にかつおだしの効いた料理の数々に舌鼓を打ちました。ツナ缶(ランチョンミートも!)も忘れてはいけません。台風で家から出られないときの強い味方なのだそうです。そして、二日目の夕飯の食材を探して立ち寄ったJAのお店で面白い出会いがありました。それは長生(雲南)百薬、またの名をオカワカメ(Anredera cordifolia ツルムラサキ科アカザカズラ属)という葉菜です。ツルムラサキを食べたことがある方は想像できると思うのですが、さっと湯がいた葉は少しぬめりが出ます。それをちょっと刻んでしょう油などをかけてつるつるといただくのが美味しいです。日本には中国を経由して入ってきたために、雲南百薬という名前がついていますが、実はこちら南米原産だそうです。
ゆでたところ。
南米(ボリビア、パラグアイ、ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチン)では薬用・食用で利用されていて、蚊のつる草、マデイラのブドウヅル(Parra Madeira)、ブロタル(brotal)などと呼ばれて親しまれているようです。つる性の植物で花が咲く時期には細長い軸(茎)に小さな白い花がつきます。むかごと肉厚の葉が重いため、からみついた植物を倒してしまうこともあるとか。繁殖力がとても強いので、オーストラリアや南アフリカでは侵略的外来種として警戒の対象となっています。またその特徴をいかし土壌保全にも利用されているそうです。
栄養成分と健康への効果
雲南百薬は、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、銅、ビタミンA、葉酸などを多く含んでおり、抗酸化・免疫力向上・脂肪酸代謝活性作用のある野菜として注目されています。糖尿病、血液サラサラ効果、貧血、生理痛、白内障などさまざまな症状に効果があるとされています。

※石垣島にあるサイエンスガーデンで撮影(2025年2月)。
アルゼンチンの公園レンジャールシアナさんの方の動画。最後、生でバジルとトマトと一緒にサラダにしています(私は生では食べたことがありません。生だと苦いという意見もあるようです)。
植物もとめてサイエンスガーデン
研究会のみなさんとは那覇でお別れし、翌朝早朝の飛行機でどなんに渡って経験したことは前回の記事にありますが、今回、飛行機の関係で石垣島に丸1日滞在することになりました。八重山地方に詳しい友人におすすめの過ごし方をきいたところ、離島めぐりをすすめられ、とくに島全体が植物園になっている由布(ゆぶ)島がよさそうだったので楽しみにしていたのですが、ツアーを申し込もうとしたらまさかの売り切れ。結局、石垣島内ですごすことに決めて調べた結果、川平湾に面した石垣島西部にあるサイエンスガーデンのことを知ったのでした。川平ファームというパッションフルーツの栽培と販売で有名な農園の方が趣味と実益をかねて始められたとか。
川平湾に面したパッションフルーツの畑を含む約5000坪の土地で、多種多様な植物やマングローブの観察、希少生物等の観察が行える自然科学の庭園です。
一年中自然の形でのネッタイスイレン が咲き競う池、60種類以上のパッシフローラ(時計草)の見本園等、40年以上無農薬・無化学肥料の土地で様々な動植物を観察してできる庭園を10年以上かけて整えています。
さすがに今の時期はトケイソウは咲いていませんでしたが、それ以外の種々の植物を楽しむことができ、園内をゆっくり歩きまわって大満足でした。受付のある棟ではボタニカルアートの展示もありました。おいしいドリンクもいただけます。パッションフルーツ(クダモノトケイソウ)のミルクセーキを頼みましたが、すっきりして果物の風味もあり美味しかったです。余談ですが、ミルクセーキはスペイン語だとlicuado(リクワード)、果物を水と割ったりミルクと割ったり。与那国島の空港のカフェのバナナのリクワードも美味でした! もとい、じつに魅力あふれる庭でした。植物好きな方にはぜひおすすめしたいです(レンタカーでの移動がおすすめ)。季節によってはヒスイカズラも見られるそうです。言葉ではいいつくせないので、あとは写真をごらんください。

アマゾンユリ(Eucharis grandiflora ヒガンバナ科)コロンビアのアンデス山地が原産とか。筑波実験植物園の温室以来の再会。
ギランイヌビワ(クワ科イチジク属)
オオベニゴウカン(Calliandra haematocephalia マメ科ベニゴウカン属 別名アカバナブラシマメ) ボリビア原産
ウナズキヒメフヨウ(Malvaviscus arboreus アオイ科ヒメフヨウ属) 熱帯アメリカ原産 この赤い花も食べられるそうです。
▼スイレンの池


▼マングローブの向こうに川平湾をのぞむ

plantasderosita.hatenadiary.jp
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特別編)どなんに渡る クバ細工と長命草
与那国島に行ってきました。渡るのがむつかしいということから「渡難(どなん)」と呼ぶという説もあるくらい、天気次第では飛行機も飛ばないこともある日本の最西端の島。西の岬と東の岬辺りでは、放牧された馬がのんびり草を食べています。西崎からは夏の晴れた日に台湾の島影が見えることもあるとか。島には大きな集落が三つあり、人口はおよそ1600人。島の西部には陸上自衛隊の基地もできていました。今回、初めて訪れたこの島で、よなは民具さんでのクバ細工体験をさせていただきました。だんだんにこのような技術も失われつつあるそうで、それを次の世代につなげていきたいという思いで、このようなお仕事をなさっているそう。先日、観察会にお邪魔した茨城県の土浦の里山でも、昔は何にでも使っていた竹が、いまはプラスティックに代わったので邪魔者扱いになったというお話がありました。
クバ(ビロウ Livistona chinensis)は島内あちこちで見かける木でヤシ科ビロウ属。『沖縄の身近な植物図鑑』(下にリンクあり)によると高さ4~15メートルの常緑高木で、九四国南部から中国南部に分布。海辺の林、街路、公園、御嶽、庭などに植えられ、「ご神木としても植えられる」そうです。葉には抗菌作用もあるということで、空港の売店ではクバ餅が売られていました。今回は水汲みかごを教えていただきました。
乾かしたクバの葉のまんなかのくっついた部分を胴にして、裂いた葉で持ち手を作っていきます。

やさしい先生の指導で、あまり器用とはいえない私でもできました。



▼こちらもクバの葉で巻いてあります。与那国島の泡盛(米を原料とする蒸留酒)。アルコール度60って聞くだけで目が回りそう。どんな味でしょうか…
▼『ナンタ浜』(宮良高夫詞、宮良長包作曲)という歌でも知られる浜辺。曇っていてもこの美しさ。

ところで、空港のカフェにはこんなお料理がありました(下の写真)。長命草そば だしはカツオの沖縄そば。麺に長命草が練り込まれていますが、香りはそこまで強くありません。

長命草(Peucedanum japonicum)は与那国島の海岸、石灰岩地、砂地に自生するセリ科カワラボウフウ属の植物。サクナ、ボタンボウフウ、チョーミーグサなどと呼ばれていて、ビタミンがバランスよく含まれ、ポリフェノールも豊富なので抗酸化作用があるそうです。美容にもよいとかで、最近はサプリなども開発されています。名前からして長生きできそうです。地元では天ぷらや魚汁、白和えなどに使われ、咳止めや風邪をひいたときによいといわれているそう。*1
写真の長命草は、石垣島のJAで購入。葉を摘んで束ねてあります。値段は百円前後でした。かなり煮込んでもしっかりした食感と香りが残りますが、魚のスープに入れたら魚の生臭さが消えて美味しかったです。

ペウェンとの出会いから考える
ペウェンの森にたどりつくまで
宿の主人でガイドのM氏は迷っていた。観光の目玉であるナウエルブタ国立公園への80kmほどの道はいまとてもよくないらしい。近隣の街でランチの材料(ピクニックのご飯はチーズとハムのサンドイッチ!)を買ったあとも、地元の知り合いの家を訪ねて道の様子を確認していた。結局深くえぐれた轍の残る山道を延々走って(素人目ながら運転はとても難しそうだった)、国立公園にたどりつく(入場はおとなは有料)。のだが、その前に山中でひとつの儀式に私たちは参加することになった。
それは山に祈りをささげるというもの。車を降りたところから大きな声をたてないように注意をうけ、森の中でマプチェ語であいさつをささげる。意味はわからないなりに各自神妙にひざまずいて目を閉じる。環境汚染にはいろいろな種類があるが、そのひとつが「音の公害」というものなのだそうだ。森でみだりに大声をあげて騒いだりしてはいけないとのことだった。
国立公園の入り口にたどりつくまでには、車で山中の細い道をのぼったりくだったりするのだが、途中で木々が切り倒された場所を何か所か通った。そういった場所はとても埃っぽく、無残な様子に見えた。
ナウエルブタ国立公園
公園のゲートからピエドラ・デル・アギラ(Piedra del Aguila 鷲の岩)*1までは、特に深いわだちがえぐれた道を上っていく。鷲の岩が巨岩の手すりも何もない場所で、ペウェンの森を超えてはるか遠くまで見渡せる絶景のポイントだが、登りおりして記念撮影する観光客の安全は、本人の自己責任にかかっている…
マプチェの若者たちの歌う上記のビデオにもところどころ登場する。

岩への途上で見られる風景
ペウェンかモンキーパズルか
ペウェンの世界共通の学名がアラウカリア・アラウカーナであることは前回書いたが、英語圏ではこの植物をモンキーパズル(サル泣かせ)と呼ぶ。「卵状三角形の堅い葉を密生した枝はサルも登れまいという」ことのようだが、「しかし、チリマツの分布圏にサルはいない」*2。18世紀にやってきた英国人がこの種を持ち帰り栽培に成功すると、すっかり人気の園芸植物となった。また非常に堅牢な木材だということで、一時は伐採が進んだため、いまでは保護の対象となっている。
ペウェンは成長がとてもゆっくりで、若いころは枝がふつうに根元近くまで茂っているのだが、ある程度の年齢になると樹冠近くに集中して傘のような形になる。ピエドラ・デル・アギラのふもとを少し歩くと、樹齢2000年超というペウェンをみることができた。甲羅のような樹皮は山火事にも耐性があるといい、最近の山火事で樹皮がすすけたようになっている場所もあった。
ペウェンの実は濃厚な味わいで、マプチェのいくつかのグループの中でとくに「ペウェンチェ」と呼ばれる人たちがこれをよく食用にし、それ以外のグループの人たちは、彼らほどは食べたりはしないと聞いた。
若いペウウェン

2000歳といわれるペウェン。この下に大きなうろがあり、人が5~6人はいれそうだった。
プレンのペウェン【ペウェンその1】
話が多少前後するのをおゆるしいただきたいのだが、エリクラ谷2日目はプレン(Purén)の街を訪問した。プレンの街の中央広場にはペウェン(A. langustifolia)が植えられていた。

▲中央に2本対称な形で伸びている、傘のような形の個性的な樹冠を持つのがペウェン。広場の中心にある丸いオブジェはマプチェの伝統音楽でよく使われる太鼓クルトゥルンをイメージしたもの。
ペウェンは和名をチリマツ、またはアラウコ松といい、ナンヨウスギ科に属し、学名はAraucaria araucanaという。「南洋杉」という和名は、明治時代中期、この属の植物としていち早く日本に持ち込まれたナンヨウスギAraucaria cunninghamiiに対して与えられた名前であり、南洋のニューギニア島やオーストラリアに自生するスギに似た葉をつける植物。しかし、その代表種はスギとは似ていない南アメリカ原産のチリマツであり、属名のAraucariaはチリの先住民のアラウコ族にちなむ。以上『朝日百科 植物の世界11巻』(1997年)の解説を参照。
アラウコ族とは、スペイン人の軍人・作家アロンソ・デ・エルシージャ(Alonso de Ercilla 1533-94)が自身の参加したスペイン人と先住民の闘いを歌った叙事詩『ラ・アラウカーナ(1569-89)』によって知られるようになった、マプチェ人に対する呼称だ。
エリクラ谷についた翌日は、近くの街プレンを散策したのだが、プレンはかつてスペイン人によって金を探索するための砦が築かれた場所である。歴史の本にはこうある
一五五二年、コンセプシオン近くの川で金が発見されて、スペイン人たちのあいだにセンセーションを巻き起こした。アラウコ、トゥカベル、プレンの砦がつくられ、金の探索が始まったが、その地方の住民はアラウコと呼ばれる勇猛な人々だった。アラウコ人は自由を愛して、スペイン人の強制や束縛をきらい、反抗的な態度を示した。バルディビア[ペドロ・デ・バルディビアは、現在のサンティアゴ市やコンセプシオン市を建設した「(スペイン側から見た)英雄」-筆者注]は容赦なく不服従を罰し、武力で反抗するときには、捕虜の鼻や手を切って威嚇しようとした。しかし、これがかえってアラウコ人の怒りをかって、彼らを団結させた。バルディビアがかつて馬丁に使っていたアラウコ人ラウタロは脱走して、闘うアラウコ人の有能な指導者になっていた。五三年十二月、バルディビアが四〇騎を連れてトゥカベルの砦に向かったとき、優勢なアラウコ軍の待ち伏せにあって捕虜にされ、ラウタロの前に引きずりだされ、一寸刻みにされて殺された。(増田義郎編『新版 世界各国史26 ラテン・アメリカ史II 南アメリカ』山川出版社、2012年)
プレンの町はずれにはかつての砦を彷彿とさせるモニュメントがあり、ラウタロや、彼亡きあとスペイン人と闘ったカウポリカンとその妻と子の像が建てられていた。二枚目の写真、ひざまずいている男がカウポリカンで、その後ろに立つ白いものは、彼の処刑につかわれた槍をイメージしたものと思われる。



▲周囲の山々はユーカリの植林が進んでいる。写真では見えないが、肉眼だと山火事のあとの焼け焦げた山肌も見ることができた。
ところで、この記事のなかで、ペウェンの学名が二種類出てきたのでおやと思われた方もいたと思います。ガイド氏に教えていただいたのですが、広場の入り口に植えられた二本のペウェンは、樹形はよく似ているが、パラグアイやブラジルに育つ別の種のペウェンだったのでした。次回はいよいよナウエルブタ国立公園のペウェンの群生地のお話です。
五月の空にチリを思う(チリ南部から 3)

桑の実摘んで思いだす
近所の川辺に桑の実を摘みに行ってきました。五月らしいさわやかな風に吹かれて、鳥の声を聞きながら熟した実を、時には口に運びながら摘むのは、とても楽しい作業でした。桑摘みをしながら思い出したのは、チリでのこと。ペウェン(アラウコマツ、チリマツとも)の山に行った帰り(この日のことは、また後日詳しく書きたいと思います)、一休みした場所にたくさんのモラ*1がしげっていて、それを摘みながら食べた時のことです。
チリのヘーゼルナッツ
先日はマキのことを書きましたが、ほかにもいろいろな植物の実をかの地では食べているようです。そのうちのひとつ、アベジャーノ(avellano)はスペイン語ではヘーゼルナッツのことですが、ここではヤマモガシ科のGevuina avellanaを指します*2。マウレ地方からマゼラン海峡の間に分布しており、マプチェ語ではÑevuiñと呼ぶこの木の実は、生で、干して、焼いたり煮たり、粉に挽いて食べたり、葉は羊毛をコーヒー色に染めるのに使われるそうです。

▲木 20メートルの高さに達するものもあるとか。これもかなりの高さ。 ▼落ちていた実。親指の先ぐらいの大きさの赤い可愛い実のなかにナッツが隠れています。

ウグニ、ムルタまたはムティージャ
それからマプチェ語ではウグニ(Ugni 学名Ugni Molinae)、スペイン語でムルタやムティージャ(マプチェ語は”r”の音を強く発音しないので、このように聞こえるらしい)と呼ばれる植物があります。通常は1~2m、ときには4mほどにまで成長するフトモモ科の低木で、下の写真のような可愛い白い花が咲きます。秋になるとブルーベリーをひとまわり小さくしたような赤い実をつけます*3。
この実は甘く独特の風味があって、かつては飲み物を作るのにつかわれたそうです。また、現在ではジャムを作ったり菓子の材料としてもつかわれます。チリ南部に19世紀末以降移住してきたドイツ系の移民の作る菓子が「クーヘン」として名物になっていますが、このムティージャを使ったものも人気があるそうです。

▲花 ▼実(まだ少し若い。2024年2月撮影)

チリに住むエンジニアで実業家のDeik氏がこのようなレシピを公開されています。
一年を通して観察したら、もっといろんな食べられる実があるのだろうなと想像しています。今回の旅では、アルゼンチンで野山の植物を食べる手引きのような本*4も見つけました。チリと共通するものも掲載されています。また何かの形でシェアできたらと思っています。
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チリ南部から(2) ぶーんと飛ぶのは。そしてとんだ勘違い
私がエリクラ谷についたのは夏の終わりで、リンゴの木には実がすずなりで、びわは収穫されず木の上で乾いており、すももの熟した実が数個木に残る時期でした。お宿の中庭の畑ではさやいんげんが実り、とうがらしやポロネギが青くしげって収穫を待っていました。
▼畑の縁取りはマリーゴールド

中庭でひときわ目を引いたのが、宙につるされたような赤い花をつけるチルコ(Chilko) Fucsia magellanicaの茂み。日本にも園芸用にフクシア・マゲラニカとして知られています。フクシアはアカバナ科の低木で、ニュージーランドや中南米が原産とされています。

チルコはチリやアルゼンチンに暮らすマプチェの人びとにとって大事な薬用植物で、花や葉、樹皮を煮だして熱さましや利尿、月経をととのえたり出産を促進するために利用されてきたそうです*1。また、この植物は水の豊かな場所に育ち、原生林でよくみられる植物だということで、実際、エリクラ谷近辺の山でもよく見かけました。深い緑のなかに赤い花が点々と見えるさまは、とても美しかったです。
チリ南部では植林が盛んなのですが、植林でよくつかわれるユーカリ(紙の原料として海外にも輸出される)は特に土地を乾燥させるため、周辺地域では川の水位が低くなったりと影響を受けているとのことでした。森の多様性も以前より失われつつあると、地元の方はとても危惧していました。*2
チルコの茂みに近づいてみるとぶーんというハチの羽音のような音がきこえるのですが、よく耳を澄ますとなんだかちょっと違う音で、それはハチドリの羽音でした。ハチドリはとても用心深く、私が近づくとすぐ隠れてしまうのですが、何日かたつうちに少しずつ近づいてきてくれたような気がしました。チルコの宙につり下がったような花の形をバレリーナにたとえる人もいますが、私には花の蜜をすうハチドリの姿に見えてしかたありませんでした。
そのほか、目を引いたのはアラジャン(Arrayán) の花です。まぶしいほどの白い花をいっぱいにつけ、そこにはいつもハチが集っていました。アラジャンというと、地中海沿岸原産のフトモモ科の常緑樹Myrtus communisがよく知られていて、和名をギンバイカ、英語でマートル、イタリア語だとミルトの名前で呼ばれ、地中海沿岸では古くから愛と美を象徴する女神たちに捧げられていたものなのですが…
実はこの花、スペイン語名は同じだけれど、別の植物Luma apiculataだということがわかりました。(2024.6.1訂正)こちらもフトモモ科に属し、チリ、アルゼンチンの南部原産です。花弁が4枚なのがヨーロッパのギンバイカと異なる点で、樹高はギンバイカが5メートル程度なのに比べ、南米のものは10~15メートルほどにまで成長することや、木の肌の色が独特です。そっくりなのは、濃い緑の葉と、繊細なおしべが目立つ白い花です(ギンバイカは5弁)。詳細はわかりませんが、スペイン人が故郷の花をなつかしんで、このような名前をつけたのかもしれません。ちなみにサンティアゴの空港ではジャムが土産物として売られていました。蜜源としても大いに利用されているようです。
花(2024年2月撮影)
樹皮とその実(2024年6月撮影)
エリクラ谷からの報告、まだ続きます。
*1:Centro Cultural Rayen Wekeche Valle de Elikura "Elikurache Kimün Mongen Kimün Guia introductoria" 2019




