南米植物文化研究ノート

南米の植物にまつわるあれこれ。個人的な研究の記録です。

植えたら最後  ハゼラン

 ハゼラン Talinum paniculatum Talinum crassifoliumとする説も*1ハゼラン科 ハゼラン

 亜熱帯~熱帯アメリカ原産 多年草 50センチぐらいの高さまで成長。アフリカ大陸の一部やフィジー、東南アジア、中国にまで普及している。

 

 日本では観賞用に持ち込まれたものが逃げ出し、いまでは雑草化しています。英語でcoral flower(さんご花)、jewels of opal(オパールの宝石)、スペイン語ではrama de sapo(カエルの枝), フランス・スベリヒユ、ブラジル(ポルトガル語)で太っちょマリア(Maria gorda)、日本では、三時草という別名などがあります。というのも計ったように午後3時になると咲きだすからです。つぼみも実も、丸くて小さい愛らしい姿で、紅色の5弁の花も美しいのですが、要注意です。

 

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方眼3ミリのスケッチブックの上で撮影。

 

 もう5年以上前のことになるのですが、仕事に行く道すがら、この花を見て可愛いなあと思い、種を採って帰ってベランダの鉢にまいたのです。それ以来、初夏から秋にかけて毎年楽しませてくれる花… というと聞こえがいいのですが、いたるところに種をまき散らし、ぬいてもぬいても出てきます。というわけで、今はちょっとした頭痛の種。

 

 なお、琉球(沖縄)では「イチズル」「イチジューリュー」と呼ばれ、薬草としての使い方も伝承されているようです。

ハゼラン | 亜熱帯生物資源データベース (u-ryukyu.ac.jp)

 

 食べることもできるときいて試してみましたが、軽く炒めて食べた食感は、ぬるっとしていてツルムラサキのようでした。独特の香りも似ていました。youtubeでは"espinaca silvestre (スペイン語。野生のホウレンソウ)"と紹介するビデオもあり、食べられる野草という認識は共通しているようです。

 

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つやつやした立派な葉が茂ります。枝分かれした先に花をつけるので、うまく写真が撮れません。ご近所さんの庭先にて。

 

 驚くのはその根の存在感。放置しつづけると、可憐な花に似合わず、ちょっとした芋のように存在感のある大きさになります*2。葉も摘めども摘めども増えますから、しっかり光合成して根に栄養を蓄えているのですね。参りました!

*1:wikipedia 日本語

*2:根の形から来ていると思われる、ジャワの人参Ginseng Jawaという名前もあります。

【番外編】あたみではなみ~ATAMIジャカランダフェスティバル2021

 以前このような記事を書いた。

 

plantasderosita.hatenadiary.jp

  

 それから4か月間、新学期と6月初頭の学会の準備でバタバタしていたのだが、ひと段落ついて検索してみたら、熱海のハカランダ*1(なぜ、「ジャ」カランダではないのかは前の記事をごらんください)が見ごろというニュース。

 

www.tokyo-np.co.jp

 

 3年ほど前に両親のお供でいったバスツアーの車窓から見たハカランダはまだひよひよしている印象だったけど、今年は花がとくによく咲いているそう。そう聞くともう矢も楯もたまらず見に行ってきた。

 

 

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 ▲ちょうど目の高さに咲いていた。

 

 熱海市観光協会作成のパンフレットによると、人工の砂浜サンビーチ沿いのジャカランダ遊歩道と親水公園におよそ140本のハカランダが植えられているそうだ。(このほかにも商店街の通りなどに植えられていた)ほかに、ブーゲンビリアアメリデイゴも花を競っている。私が行ったのは平日だったけれども、そこそこ観光客も散歩していた。ハカランダの花はいちばんの盛りはすぎたようだが、それでも一杯に花をつけた木もあって、心が満たされた。

 

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▲曇りの日の空と海。

 

 以前バスの窓から見たのは植えられたばかりの苗木だったようで、遊歩道には十数メートルの大きさになっている木もあった。この木から落ちた花が地面に散り敷いた様子が、一度見たものには忘れられない風景で(かくいう私もそのひとりなのだけど)、南アフリカで、スペインで、北米のカリフォルニアで見た! という声を在外経験のある友人たちから聞いた。メキシコでは3月8日の国際女性デーのころに咲くそうで、街を染める薄紫の花と女性たちの行進のイメージが結びついているという友人もいた。

 

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▲曇り空でもこの迫力。

 

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▲少しだけ残っているハカランダとブーゲンビリア

 

 ハカランダの花を、メキシコでは日系の方たちが郷愁をこめて「メキシコ桜」、アルゼンチンでは「アルゼンチン桜」と呼ぶとか。ボリビアに移住した沖縄の人たちは、また別の植物を「なんべい桜」と呼ぶときいた。その話はまた日をあらためて。

 

 

 

*1:熱海では国際姉妹都市ポルトガル、カスカイス市から1990年にハカランダを贈られたことがきっかけで植栽が始まった

ヒマワリとマリーゴールド

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輝く太陽の花

 ヒマワリ(Helianthus annuus キク科ヒマワリ属)がアメリカ大陸原産だとは思ってもいませんでした。アコスタは「日の花と呼ばれるのは、太陽のかたちをした珍しい花で、太陽の動きにしたがって回転する」と書いています。スペイン語では"girasol"、”gira”が「girar=回る、回転する」の動詞、”sol”は太陽なので、日本語の「日回り」にも通じます。南米の先住民言語のひとつケチュア語ではInti wayta(intiが太陽、waytaが花)、中米の先住民言語のひとつナワトル語では chimalxochitl(chimalatl = 盾, xochtl=花「盾の花」?)などと呼ばれているそうです。

歴史の中の植物:花と樹木のヨーロッパ史

 遠山茂樹著『歴史の中の植物 花と樹木のヨーロッパ史*1によると、アメリカ大陸から持ち出され16世紀の初頭にスペイン王立植物園(いまも存在します。Real Jardín Botánico)で栽培されてヨーロッパ諸国にひろまりました。現在のように油をとることが目的の栽培は、1830年代のロシアで始まったそうです。*2この本には、ヒマワリの種からアメリカインディアンは菓子やパン、スナック菓子を作ったとありますが、実際にどのように食べていたのか探していたところ、米国ヒマワリ協会(National Sunflower Association)というサイトを見つけました。これによると、紀元前3000年ごろには現在のアリゾナニューメキシコで栽培されていて、トウモロコシよりも栽培作物化は早かったと考える考古学者もいるそうです。*3協会のサイトにはレシピもいろいろ載っていますが、この地域は旧スペイン領(植民地からの独立後、1848年にメキシコから米国に割譲)であることから、スペイン語で探してみることにしました。

食料としてのヒマワリ

 ヒマワリのスペイン語名のひとつに”maíz de teja”があります。maízはトウモロコシ(イネ科)のこと。また、tejaはスペイン語で「瓦」の意味で、屋根の瓦の上でヒマワリの種を乾燥させていたからだそうです。トウモロコシは現在のメキシコあたりが原産地と考えられていて、今のメキシコ~中米ではとても大事な作物とされていますから、それになぞらえるということは、ヒマワリもやはり重要な食物と考えていいのでしょうか?

 下の動画は、テキサス州ブラウンズビルにあるレストランLa Vaquitaの作成したものですが、ご主人の親戚らしいコンチータおばさんが「アトーレ」という飲み物を作るところを紹介しています。一般的にはアトーレはトウモロコシで作るのですが、ここではヒマワリの種を炒ってから挽いて、トウモロコシのマサ(石灰水につけておいたトウモロコシをゆでて練ったもの)と合わせ、水とピロンシージョという精製前の黒糖(メキシコでもサトウキビは栽培されます)とシナモンを加え、温めて作ります。飲んだことはありませんが、こっくりとした味わいが想像できます。冬の寒い時期に向く飲み物だそうです。

 


www.youtube.com

 日本でメキシコ料理というと、一昔前はアメリカナイズされた味の濃いものが知られていましたが、最近は本格的なものを追求される日本人料理人の方も増えています。メキシコ料理は、2010年にはユネスコの世界無形文化遺産にも登録されました。トウモロコシをゆでるときに石灰水を使う技術ひとつとってもそうですが*4、先住民の知恵が生かされた料理は、まだまだ奥が深そうです。遠山氏の著書には、「インカ帝国では太陽神の象徴だった」ともあり、南アメリカのインカにより支配されていた地方でどんな用いられ方をしていたのかも興味をそそられるところです。

 

 


www.youtube.com

  Gira, gira, girasol. Gira,gira, como el sol. まわれまわれ、ひまわり。まわれまわれ、お日様のように と歌っているのはチリの歌手ビクトル・ハラ(1937-1973)。

 

死者を導く花 マリーゴールド

 ヒマワリとちがって背丈は低いけれど、黄色やオレンジ色の花が目を引くマリーゴールド(Tagetes, キク科コウオウソウ属)もメキシコ~中央アメリカの原産で、スペインを経由して南ヨーロッパ北アフリカに広がったとか。アフリカン・マリーゴールドやフレンチ・マリーゴールドといってもアフリカやフランス原産というわけではないそうです。また、中世ヨーロッパで聖母マリアの花と呼ばれていたのは日本でいうキンセンカです。*5 メキシコなどではマリーゴールド(Tagetes erecta)は、11月の初めの死者の日の祭りで飾りつけに使われる特別な花で、cempazúchitl, cempasúchil, cempoalと現地では呼ばれたりします。死者が葬られた墓や魂を迎える祭壇をこの花で飾ると、死者が導かれて戻ってくると考えられているそうです。

▼在日本メキシコ大使館の「死者に捧げる祭壇2020年」

 

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 また、メキシコシティにあるメキシコ料理店Tamalito Corazónの  インスタグラム・アカウントでマリーゴールドの食べ方が紹介されていました。葉と花(おしべ、めしべ、茎はとりのぞく)は重曹を入れた水でよく洗ってスープやサラダに、また、お菓子(パン、シャーベット、アイス)にも使うことができるとあります。秋になると日本でも食用菊が出回りますが、そんな感じなのでしょうか? 菊もそういえばよく死者にお供えされる花ですね。冬に鍋物によく使われる春菊もキク科で、葉には独特の香りと味わいがありますが、マリーゴールドの葉はどんな味?

 

ヒマワリちがいーミズヒマワリ 

 花の色や形は似ていませんが、ヒマワリつながりで、ミズヒマワリ(キク科 ミズヒマワリ属 Gymnocoronis spilanthoides)と呼ばれる植物があります。現在は関東地方以南の各地で確認されるこの植物も、中央~南アメリカから日本にやってきた植物です。ミズヒマワリ / 国立環境研究所 侵入生物DB (nies.go.jp) アサギマダラを誘引し、昆虫や虫媒植物への影響が危惧されているそうです。  

 第二次大戦後、熱帯魚の輸入に伴って侵入してきたと考えられ観賞用の水草としても流通していたのが、1995年に愛知県で定着が確認されたとのこと。*6珍しい可愛い植物を愛でたくなるのは大昔からの人間の性なのだと思いますが、結果として生態に影響を及ぼしている例のひとつです。

 

*1:2019年 八坂書房

*2:j05-08.pdf (tokusanshubyo.or.jp)

*3:History(sunflowernsa.com

*4:ニクスタマル About | Los Tacos Azules

*5:遠山、2019年

*6:財団法人リバーフロント整備センター編著『誰でもわかる外来種対策~河川を事例として~』2012年

少し先の風景を想像してみる

 

春の風物詩ナガミヒナゲシ

 道端にかわいいオレンジ色のポピーの咲く季節となりました。ナガミヒナゲシ(Papaver dubium)*1 という花です。先日は空地いっぱいに咲き乱れているのを見かけました。この植物はヨーロッパ原産の帰化植物で、種が車のタイヤによって運ばれ、道路沿いから畑までひろがっているそうです。ナガミヒナゲシは、根から他の植物の芽生えを阻害するアレロパシー物質を出すため、農地などでは迷惑がられているそうです。*2 このように、帰化植物のなかには、しばしば雑草化して迷惑がられる存在になっているものもあるのですが、今日はそんな野生化した植物のなかでアメリカ大陸から来たものをいくつか紹介します。以前紹介した「ムラサキカタバミ」もそうでした。

 

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夕化粧 オシロイバナアカバナユウゲショウ

 まずは、オシロイバナ(Mirabilis jalapa)。『野草大図鑑』(高橋秀男監修、1990年、北隆館)によると日本では江戸時代から記録があるそうです。よく栽培され、野生化している、とのこと。学名にある"jalapa"はメキシコ、ベラクルス州にあるXalapa/Jalapa(「ハラパ」と発音)という地名から来ているようで、そういえばハラペーニョという緑色の辛い唐辛子もありましたね。(ハラペーニョは「ハラパの」という形容詞)中米から南米の熱帯地域原産で、スペイン語の名称は数えきれないほど。理由はわかりませんがDiego, Pedro, Juanなどスペイン語の男性の名前のついたもの、「ペルーのふしぎ(maravilla)」、「メキシコ・ジャスミン」など、原産地や香りに由来するだろうものなどいろいろあるようです(スペイン語Wikipedia情報)。夕方に咲くことから、「夜のドン・ディエゴ」などという名称もあります。どんなわけがあってつけられた名前でしょうか、妄想をかきたてられます(笑)。

 

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▲「お、しろい花」と思わずダジャレを言ってしまった… 白花は珍しいように思うのですが。

 

 日本でも夕方に咲くことからユウゲショウ(夕化粧)という粋な名前がありますが、どちらかというと黒い実のなかに「おしろい」のような白い粉が入っていることからついた「オシロイバナ」のほうが知られているのではないでしょうか。子どもの頃はパラシュートを作って遊んだりしました。

 

動画や写真で遊び方を紹介しているサイト↓

45mix.net

 紛らわしいのですが、日本語でユウゲショウと呼ばれる植物がほかにもあります。オシロイバナと区別するためにアカバナユウゲショウ(Oenothera rosea)と呼んだりもするそうですが、月見草と同じアカバナ科でこれも園芸用に導入されたものが逃げ出した外来植物だそうです。*3

 

アカバナユウゲショウ  小さいけど鮮やかな色が目を引きます。

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富士山に似合うマツヨイグサ

    薄暗い夕闇の中にあかりを灯したように黄色く咲く月見草は、太宰治の『富嶽百景』や竹久夢二の作詞した歌*4で知られ、”富士山に似合う”在来種のように思われていますが、じつは日本には自生種がなく、すべてのツキミソウ属がアメリカ大陸からやってきたのだそうです。*5 チリ原産の元祖マツヨイグサ(Oenothera stricta/odorata)はこちら。アルゼンチンの植物相のサイトでは Flora Argentina(Oenothera versicolor)

 

 複数の種類がある「月見草」の和名にはツキミソウマツヨイグサが混在していてややこしいのですが、太宰が見たであろう黄色い花をつける月見草(オオマツヨイグサ Oenothera grazioviana)は明治初年頃日本にはいった園芸植物であり、「都会を中心に、その後、帰化したコマツヨイグサ(Oenothera laciniata)やメマツヨイグサ(Oenothera biennis)などに取って代わられている」*6とのことなので、もはや今ではあまり見られないかもしれません。最近では薄い白、または桃色の可憐な花をつけるヒルザキツキミソウ(Oenothera speciosa)ーこれは昼に咲くーもあちこちでみかけますが、これも米国中部~メキシコ北部原産の帰化植物です。

 

ヒルザキツキミソウが近所の道路わきに群れて咲いていました。大輪が風にそよぐ様子はとても可憐。

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 なお、夕方に開くオオマツヨイグサスズメガに受粉してもらうのだそうです。昆虫写真家の海野和男さんが、ペルーのスズメガの写真を公開されています。*7 写真だとわかりにくいですが、花の蜜を吸う長くて細い口吻が特徴です。太ったハチというか、小さなハチドリのように空中で止まって、目に見えない速さで羽ばたきながら、伸び縮みする長い口吻をつかって花の蜜を吸う昆虫です。幼虫が巨大でカラフルな芋虫なので、子どもは見つけたらきっと大はしゃぎでしょう。これから夏にかけて、近所の植え込みなどでも成虫が花の蜜を吸う姿が見られると思うので、探してみてください。

 

雑草にも流行が?

 帰化植物の生育場所が安定するには50年ぐらいかかるという説があるそうです*8。専門的なことはわかりませんが、半世紀ほど生きてきて、子どもの頃に見た”雑草”が、今とまったく同じではないという感じがします。

 最初のナガミヒナゲシの話に戻ると、環境研究所のデータベースでは、ナガミヒナゲシは土壌の種類は選ばないと書かれていますが、「コンクリートによってアルカリ性になった道端の土壌を好むとも言われている。」*9 そうです。鉄道の敷設によって全国に広がったヒメムカシヨモギ*10などのように、人間の活動の結果、あらたな植物が”侵入”するというサイクルになっているのかなと思います。

 雑草の定義としては、「諸説あるが、作物を栽培する水田や畑に勝手にはえてきて、作物の生育に害を与える一群の草。また、庭や公園などに自由にはびこり、美観を損ねる一部の草」と『ミニ雑草図鑑』(廣田伸七編著、2005年、全国農村教育協会)にありました。人間が自分の活動に合わせて定義するものということがわかります。これも以前のブログで紹介したのですが、日本では雑草扱いのハキダメギクが、コロンビアではハーブとして利用されていました。

 

plantasderosita.hatenadiary.jp

 

 私は、ただ草花が好きなだけの人間なので、生態系や帰化植物の扱いについて何か言えはしないのですが、これらの植物の故郷の南北アメリカは、500年ほどの間に大きく自然が変えられました。そのなかで失われていったものはどのくらい大きいのだろうと考えてしまいます。日本で起こっている変化が、それに比べてどうかはわかりませんが、どちらの場合も人間の責任は大きいはずです。だから、自然を相手に何かするときには、ちょっと立ち止まって、過去の事例を調べてみるとか、50年100年先のことを想像してみることができたら、何かが変わるのではないか? 小さくても、そのようなきっかけにでもなれば幸いと思ってこれを書いています。

*1:ナガミヒナゲシ / 国立環境研究所 侵入生物DB (nies.go.jp)

*2:農環研ニュースNo90 (affrc.go.jp)

*3:稲垣栄洋、『ワイド版 散歩が楽しくなる雑草手帳』2018年 東京書籍

*4:『宵待草』作曲は多忠亮 おおのただすけ 1917年初演、1918年出版

*5:稲垣、2018年

*6:稲垣、2018年

*7:ペルーのスズメガの仲間 - 海野和男のデジタル昆虫記 - 緑のgoo

*8:高見沢茂富『帰化植物秘話 植物文化を築いてきた外来植物たち』2010年、ほおずき書籍

*9:稲垣、2018年

*10:稲垣、2018年

フロリポンディオとチョウセンアサガオ

 

ロリポンディオ Floripondioとはどんな植物?

コダチチョウセンアサガオ(Brugmansia arborea) ,キダチチョウセンアサガオ(Brugmansia x candida)     ナス科ブルグマンシア属

 (以前はDatura属に分類されていたので、ダトゥラという名称でも知られている)

 わざと知られていないほうの名前で書きましたが、エンジェルストランペットときけばわかる方も多いはず。街角でもときどき見かける背の高い植物で、大きな下向きのラッパ型の花をつけます。

 原色世界植物大図鑑(「図鑑」は旧字。1986年 北隆館)によると、「コダチ~」のほうは、チリ、ペルーの2000~3000メートルの高所にはえる低木。高さ5~6メートル。花期は夏。そっくりのキダチ~ーB. aureaとB. versicolorを掛け合わせたものだそうーは、メキシコ、ペルー、ブラジルに分布する常緑低木。高さ3~5メートル、花は一年中(同)。16世紀のイエズス会士アコスタの記録だと花は一年中咲くとあるので、図鑑の記述と食い違うのですが、訳注ではDatura arboreaとしています。

 

 

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English: Brugmansia arborea flower. Originally published as Datura cornigera. Date 1846 Source http://www.plantgenera.org/illustration.php?id_illustration=1003&language=English Author Fitch

 

 アンデス地方が原産のこの花は、植民地時代の記録によると、あまりの美しさと香りのよさに、ペルー副王(スペイン国王の代理人)フランシスコ・デ・トレド*1が、「王室庭園にあるにふさわしい」と、当時のスペイン国王フェリペ2世への捧げものにしたそうです。*2 

天使のトランペット? それとも… 

 英語では天使のトランペットと呼ばれる、天国の夢が見られそうな美しい花ですが、じつは知る人ぞ知る有毒植物です。

 アコスタの『新大陸自然文化史』訳者の増田義郎氏のJohn M. Cooperの研究にもとづく訳注に、「その樹皮、葉、種などから一種の麻薬を作る習慣が、コロンビアのチブチャ族、中央アンデスケチュア族から、チリのマプーチェ族、ウィリチェ族までにわたって見られた」とあったので調べてみると、コロンビア、ペルー、チリなどで、先住民の人たちにとって、特別な意味を持つ植物だということがわかりました。名前もスペイン語のBorracheroのほか、 Huacacachu, Huanto, Maicoa, Toé, Tonga, Huaca, Huacachacaなどさまざまな名称があります。

 『図説快楽植物大全』という印象的なタイトルの本(原題は"Plants of the gods. Their sacred, healing and hallucinogenic powers" 神々の植物ー神聖な、癒しと幻覚の力、R.E.シュルテス、A.ホフマン、C.レッチュ著、鈴木立子訳 2007年 東洋書林)によれば、ブルグマンシアはいくつか種類があり、種子、花、葉、樹皮にアルカロイドを含んでいます。そして、リュウマチなどの病気の治療に用いられることもありますが、強い幻覚作用をもたらすことから、複数の先住民族の間で、それぞれのやり方で使用されています。ただ、後作用の不快さ、扱いの難しさなどから、限られた人びとー知識をもつシャーマンーの手にゆだねられているのだそうです。

”元祖”チョウセンアサガオ曼荼羅花(マンダラゲ) 

Datura L. ナス科チョウセンアサガオ

 ところで、日本に早々に帰化していた元祖チョウセンアサガオ*3ですが、江戸時代に世界に先駆け全身麻酔で手術を行った華岡青洲が麻酔薬として使ったことで知られています。

 また、華岡が使用したであろうチョウセンアサガオのほかにも、チョウセンアサガオ属にはヨウシュチョウセンアサガオDatura stramoniumというものがあり、これは現在のメキシコ、米国南西部が原産だそうです。荒俣宏さんの『花の王国』には、明治初期に日本に渡来したと書かれていました。原色版日本薬用植物事典には、チョウセンアサガオ(インド原産)、ヨウシュチョウセンアサガオ(熱帯アジア原産)、シロバナヨウシュチョウセンアサガオが掲載されており、学名の一致からDatura stramoniumは、この図鑑によるとシロバナ(ヨウシュ)チョウセンアサガオのようです。いずれも、今では日本に帰化し空き地、荒れ地に野性化して*4います。

薬用植物 (花の王国)

 余談ですが、この華岡青洲という人物を、お芝居や小説などで名前を知ったという方も多いのではないかと思います。小説家の有吉佐和子(1931-1984)が、麻酔薬の実験台となった華岡の母と妻の確執を描いた小説が芝居や映画などになりました。ちなみに作家自身は、すでに小説家としてデビューしたのちのニューヨーク留学中の、とあるパーティで出会った医師からこの名前を聞いたそうです。*5

 

華岡青洲の妻 (新潮文庫)

 有毒植物と昆虫

 ブルグマンシアの使用について、上であげた『快楽植物大全』には興味深いことが書かれていました。その昔(紀元前1万2千年より前と考えられている)、アジアからアメリカ大陸へ移動していった人びとが、アンデス山脈の周辺でブルグマンシアをみつけ、近縁種のダトゥラ属との類似性に気づいて、利用を始めたのではないかという考察でした。現地でもテレビなどでも、アメリカ先住民といわれる人たちの顔つきや肌の色を見ると、東~東南アジアなどに多いひとたちと似ているなあと思わずにいられないのですが、きっと人はずっと昔から移動する生き物だったのですね。

 どちらにしても、これらの植物は専門的な知識にもとづく使用では薬にもなりますが、有毒な物質を含んでいるので、見つけたとしても花、葉、茎などの汁が手や顔につかないよう、お気を付けください。そしてくれぐれも妙な気を起こされませんように。この花で作ったお茶を飲んだ青年がなくなったという例がチリで報告されています。日本語では、厚生労働省が右のような情報を提供しています。 自然毒のリスクプロファイル:高等植物:チョウセンアサガオ類2(キダチチョウセンアサガオ) (mhlw.go.jp)

 でも、こんな植物にも虫がやってくるのが自然の不思議さ。日本だとジャコウアゲハの幼虫がウマノスズクサという毒草を食べて、体内に毒を蓄積することが知られていますが、ブルグマンシアは中南米にたくさんの種類がいるツノゼミに樹液を提供しているそうです。(ツノゼミは小指のさきほどもない小さなふしぎな形をした虫です。下に写真のかわりの本を紹介しておきます。)また、花は夜間に芳香を放ってガをひきつけ、受粉を媒介してもらうのだとか*6。ほんとうに興味がつきません。それにしても副王トレド、毒草と知っていて国王に献上したのでしょうか。その点は、いつかスペインの植物学者の方にでもうかがってみたいところです。 

 

ツノゼミ ありえない虫

ものまね名人 ツノゼミ (たくさんのふしぎ傑作集)

 
 なお、ブルグマンシアのいくつかの種(D. arborea, D. aurea )は、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに載っていて、コロンビア~ペルーのアンデス山脈沿いの地域で「野生状態で絶滅」となっています。おそらく、この地域の環境の変化によるものなのでしょう。

 

 

 

*1:1569-81在位。パナマ以南、ポルトガル領のブラジルを除く南米の広い地域が、当初のペルー副王領だった

*2:アコスタ『新大陸自然文化史』第4巻27章

*3:朝鮮とついているが、朝鮮とはなんのかかわりもないそう。「由来の知れない植物に朝鮮という修飾語をつける習慣があったことに由来」荒俣宏『花の王国 薬用植物』1990

*4:伊沢凡人著 誠文堂新光社2000(1980)

*5:有吉の小説『ぷえるとりこ日記』では、プエルトリコ人のデート相手から聞いたことになっているのですが(笑)。典拠は関川夏央『女流 林芙美子有吉佐和子

*6:E.ダウンシー、S.ラーション著 船山信次日本語版監修、柴田譲治訳『世界毒草百科図鑑』2018、原書房

マテ茶の伝説、そしてカジャリ

 マテ茶の始まりにはこのような伝説があります。

 ラテンアメリカコロンブスが足を踏み入れて、植民地化が始まってからの500年の歴史『収奪された大地 ラテンアメリカ500年』*1を書いたウルグアイのジャーナリスト、ガレアーノの著書から先住民族のお話だけを抜き出した子どもの向けの本があります。*2

 これによると地上の世界を知りたいと思った月が人間に化けて空から降りてきたとき、ジャガーに襲われかけたところを助けてくれて、なけなしの食べ物を分けてくれた農夫にお礼としてマテチャノキを贈るというものです。

 また別のバージョンでは、「ジャシー」(月)と「アライー」(雲)が若い娘たちの姿をとって地上に降りてきたときに、やはりジャガーから助けてくれた猟師への恩返しとしてマテチャノキを贈り、その使い方を夢で教えたというものもあります。

 そしてこの農夫なり猟師には妻と娘がいるのですが、その娘がマテチャノキの守護神として永遠の命を得たともいわれます。ガレアーノの作品からむすびの部分を紹介します。

娘はマテ茶の主となって、世界中の人びとにマテ茶を与えて歩いた。マテ茶は眠っている者を起こし、怠け者を治し、見知らぬ者同士を仲間にした。

   パラグアイやアルゼンチンのマテ茶産地であるミシオネス、コリエンテスの両州には、マテ茶葉を収穫する労働者のあいだで、カジャリ( Caá Yarí)と呼ばれるマテの木の精がいて、ときに美しい女性の姿になって現れ、彼女に忠誠を誓い試練を乗り越えると収穫を手伝ってくれるという伝説があります。ただし、誓いを破ってほかの女性と関係を持つと女神が怒り死をもたらすといわれており、マテ茶葉を運ぶ労働者が突然の事故で亡くなったりすると「カジャリの呪い」と言われたりするそうです。

  イエズス会士が来るまでは、このグアラニの女神カジャリの力の及ぶ範囲はマテ茶よりもっと広範にわたっていたとも言われます*3。そして、初めに紹介した伝説の娘が同じカジャリという名前のこともあります*4が、月がもたらしたマテ茶という話がもっとも広く知られているようです。

 

動画は「森は私たちの命の一部」と語るグアラニの女性が登場するビデオ。美味しそうにマテ茶を飲んでいます。

[http://

Spot "Derecho al monte" from lrtvcooperativa on Vimeo.

]

 

*1:大久保光夫訳 1997年 藤原書店

*2:Eduardo Galeano "Mitos de Memoria del fuego" 2005 Grupo Anaya 『Memoria del fuego (火の記憶)』はみすず書房より邦訳がある。

*3:Adolfo Colombres "Seres mitológicos argentinos" 2000. Emecé

*4:別にカジャリから始まる伝説もある

ハキダメギク、コゴメギク、またの名をグアスカ

ハキダメギク Galinsoga quadriradiata キク科コゴメギク属 帰化植物 

コゴメギク Galinsoga parviflora キク科コゴメギク属 帰化植物

 まぎらわしいふたつの植物

 2017年発行の新分類牧野植物図鑑を見ていたら面白いことがわかりました。ハキダメギクの図は載っていないのです… そのかわりコゴメギクという植物の図が載っており、旧版でハキダメギクの図として掲載されたが、これは誤りである。と追記されていました。図鑑を作るほどのプロでも見分けにくいもの、素人にはなおさらです。(予防線)もちろん見分け方は書かれていて、コゴメギクにくらべハキダメギクの方が葉の鋸歯が荒く、舌状花の鱗片がより多く大きいそうです。もう少し専門的なことは、こちらの農研機構のサイト畜産草地研究所:写真で見る外来雑草:コゴメギク | 農研機構 (affrc.go.jp)を参照なさってください。

 

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 これはハキダメギクか?

 牧野博士の著書で調べてみると

 昭和31年刊の牧野富太郎博士の『植物一家言』には次のように書かれています。

 

コゴメギク

コゴメギクは、小米菊の意で、その花白色で、小形なるゆえに、こう呼ばれる。一にハキダメギクと呼ばれるが、それはよく塵あくたを棄てる、掃き溜の辺に生えるからである。この草は、一の帰化雑草で、それは、北米の原産であってGarinsoga parviflora Cavanilles(この種名は小形花の意)の学名を有する。その無舌状弁の頭状花は、きわめて小さくて、見るに足らないものである。

 

 しばしばハキダメギクの名付け親は牧野博士と紹介されるのですが、もしそうだとすると「一に~と呼ばれるが」と書かれているのはちょっとふしぎな気がいたします。また、上記の書では、牧野博士はむしろコゴメギクを和名として採用しているように見えるにもかかわらず、文中のハキダメギクのほうが有名になったのは皮肉です。しかし、もし「ハキダメギク」というインパクトの大きい名前でなかったら、ここまで人々の印象に残らなかったかもしれません。

 原産地については、ハキダメギク/コゴメギクは、図鑑により北米とするものと熱帯アメリカ原産とするものがあるようです。いまでは北米、アジア、アフリカ、英国を含むヨーロッパなど世界中に広まり、日本でも全土で見られます。*1*2 日本では雑草扱いのこの草、南米ではどのように用いられているのだろうと調べてみたところ面白いことがわかりました。

コロンビアのハーブ?  

 調査の結果、コゴメギク、ハキダメギクは、コロンビアでGuascaと呼ばれていて、ボゴタ地方のスープ、アヒアコで使われるということがわかりました。*3 日本語のレシピなどでは省略されていますが、アヒアコの風味付けに欠かせないもので、代替医療でも注目されているハーブのようです*4 カルシウム、カリウム、リン、亜鉛マグネシウムが豊富で、抗酸化力にも優れているという話です。私がいまフランス語を習っている先生のパートナー(コロンビア人)によると、お茶にして風邪のときに飲むと良いとか。(使用に際しては詳しい方と相談の上、行ってください。)

 

アヒアコの作り方の動画 


Ajiaco Santafereño o Ajiaco Bogotano

1分ごろにネギとグアスカ、コリアンダーブーケガルニを作って鍋の水に投入しています。また最後にきれいに洗ったグアスカの葉を入れています。

 

愛することは、識り、わきまえること

 この記事を書いているとき、恩師が亡くなったことを知りました。スペイン、ラテンアメリカの音楽を独学で研究し、日本に紹介したパイオニアのおひとりである濱田滋郎先生です。先生のご著書に、こうありました。

 ややこしいフォルクローレの形式名を省いて紹介しようというレコード会社の提案に対して、

音楽をやたら”学問化”せず、素直に聞いて楽しみ味わうものにしたい、という趣旨から出た言葉ならそれも結構。だが、「形式」の実体をつかみ、それを吟味することなしにフォルクローレを愛好する人が、世の中に、はたして多いのだろうか? セミ取りの子供だって、五つか六つ位のセミの種類とその名前は知っている。そして、手にしたアブラゼミやヒグラシやミンミンヤツクツクボウシから、それぞれ固有の情感を嗅ぎとるのだ(中略)チャカレーラとサンバの区別もつかずーこれは、その形式名を知らない、ということと同じではないー、漫然とフォルクローレを”楽しむ”人なら、べつに増えてほしいと私は思わない。やはりたくさんの「形式」をもつカンテ・フラメンコだって同じこと。愛することは、識り、わきまえることだ。こうした種類の「愛」なしに、ものを書き、語ってみたとてどうしようもない。*5 太字部分は原典では傍点

  と、ふだん穏やかな先生がきっぱりとした調子で書かれています。雑草と呼ばれる植物にも愛情をそそいだ牧野博士と、名もない人たちのはぐくんだ音楽を愛し、一生をささげた濱田滋郎先生の姿が私には重なります。これからも下を向いて草を見つけながら歩いていこうと思うのでした。