南米植物文化研究ノート

南米の植物にまつわるあれこれ。個人的な研究の記録です。

ヒマワリとマリーゴールド

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輝く太陽の花

 ヒマワリ(Helianthus annuus キク科ヒマワリ属)がアメリカ大陸原産だとは思ってもいませんでした。アコスタは「日の花と呼ばれるのは、太陽のかたちをした珍しい花で、太陽の動きにしたがって回転する」と書いています。スペイン語では"girasol"、”gira”が「girar=回る、回転する」の動詞、”sol”は太陽なので、日本語の「日回り」にも通じます。南米の先住民言語のひとつケチュア語ではInti wayta(intiが太陽、waytaが花)、中米の先住民言語のひとつナワトル語では chimalxochitl(chimalatl = 盾, xochtl=花「盾の花」?)などと呼ばれているそうです。

歴史の中の植物:花と樹木のヨーロッパ史

 遠山茂樹著『歴史の中の植物 花と樹木のヨーロッパ史*1によると、アメリカ大陸から持ち出され16世紀の初頭にスペイン王立植物園(いまも存在します。Real Jardín Botánico)で栽培されてヨーロッパ諸国にひろまりました。現在のように油をとることが目的の栽培は、1830年代のロシアで始まったそうです。*2この本には、ヒマワリの種からアメリカインディアンは菓子やパン、スナック菓子を作ったとありますが、実際にどのように食べていたのか探していたところ、米国ヒマワリ協会(National Sunflower Association)というサイトを見つけました。これによると、紀元前3000年ごろには現在のアリゾナニューメキシコで栽培されていて、トウモロコシよりも栽培作物化は早かったと考える考古学者もいるそうです。*3協会のサイトにはレシピもいろいろ載っていますが、この地域は旧スペイン領(植民地からの独立後、1848年にメキシコから米国に割譲)であることから、スペイン語で探してみることにしました。

食料としてのヒマワリ

 ヒマワリのスペイン語名のひとつに”maíz de teja”があります。maízはトウモロコシ(イネ科)のこと。また、tejaはスペイン語で「瓦」の意味で、屋根の瓦の上でヒマワリの種を乾燥させていたからだそうです。トウモロコシは現在のメキシコあたりが原産地と考えられていて、今のメキシコ~中米ではとても大事な作物とされていますから、それになぞらえるということは、ヒマワリもやはり重要な食物と考えていいのでしょうか?

 下の動画は、テキサス州ブラウンズビルにあるレストランLa Vaquitaの作成したものですが、ご主人の親戚らしいコンチータおばさんが「アトーレ」という飲み物を作るところを紹介しています。一般的にはアトーレはトウモロコシで作るのですが、ここではヒマワリの種を炒ってから挽いて、トウモロコシのマサ(石灰水につけておいたトウモロコシをゆでて練ったもの)と合わせ、水とピロンシージョという精製前の黒糖(メキシコでもサトウキビは栽培されます)とシナモンを加え、温めて作ります。飲んだことはありませんが、こっくりとした味わいが想像できます。冬の寒い時期に向く飲み物だそうです。

 


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 日本でメキシコ料理というと、一昔前はアメリカナイズされた味の濃いものが知られていましたが、最近は本格的なものを追求される日本人料理人の方も増えています。メキシコ料理は、2010年にはユネスコの世界無形文化遺産にも登録されました。トウモロコシをゆでるときに石灰水を使う技術ひとつとってもそうですが*4、先住民の知恵が生かされた料理は、まだまだ奥が深そうです。遠山氏の著書には、「インカ帝国では太陽神の象徴だった」ともあり、南アメリカのインカにより支配されていた地方でどんな用いられ方をしていたのかも興味をそそられるところです。

 

 


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  Gira, gira, girasol. Gira,gira, como el sol. まわれまわれ、ひまわり。まわれまわれ、お日様のように と歌っているのはチリの歌手ビクトル・ハラ(1937-1973)。

 

死者を導く花 マリーゴールド

 ヒマワリとちがって背丈は低いけれど、黄色やオレンジ色の花が目を引くマリーゴールド(Tagetes, キク科コウオウソウ属)もメキシコ~中央アメリカの原産で、スペインを経由して南ヨーロッパ北アフリカに広がったとか。アフリカン・マリーゴールドやフレンチ・マリーゴールドといってもアフリカやフランス原産というわけではないそうです。また、中世ヨーロッパで聖母マリアの花と呼ばれていたのは日本でいうキンセンカです。*5 メキシコなどではマリーゴールド(Tagetes erecta)は、11月の初めの死者の日の祭りで飾りつけに使われる特別な花で、cempazúchitl, cempasúchil, cempoalと現地では呼ばれたりします。死者が葬られた墓や魂を迎える祭壇をこの花で飾ると、死者が導かれて戻ってくると考えられているそうです。

▼在日本メキシコ大使館の「死者に捧げる祭壇2020年」

 

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 また、メキシコシティにあるメキシコ料理店Tamalito Corazónの  インスタグラム・アカウントでマリーゴールドの食べ方が紹介されていました。葉と花(おしべ、めしべ、茎はとりのぞく)は重曹を入れた水でよく洗ってスープやサラダに、また、お菓子(パン、シャーベット、アイス)にも使うことができるとあります。秋になると日本でも食用菊が出回りますが、そんな感じなのでしょうか? 菊もそういえばよく死者にお供えされる花ですね。冬に鍋物によく使われる春菊もキク科で、葉には独特の香りと味わいがありますが、マリーゴールドの葉はどんな味?

 

ヒマワリちがいーミズヒマワリ 

 花の色や形は似ていませんが、ヒマワリつながりで、ミズヒマワリ(キク科 ミズヒマワリ属 Gymnocoronis spilanthoides)と呼ばれる植物があります。現在は関東地方以南の各地で確認されるこの植物も、中央~南アメリカから日本にやってきた植物です。ミズヒマワリ / 国立環境研究所 侵入生物DB (nies.go.jp) アサギマダラを誘引し、昆虫や虫媒植物への影響が危惧されているそうです。  

 第二次大戦後、熱帯魚の輸入に伴って侵入してきたと考えられ観賞用の水草としても流通していたのが、1995年に愛知県で定着が確認されたとのこと。*6珍しい可愛い植物を愛でたくなるのは大昔からの人間の性なのだと思いますが、結果として生態に影響を及ぼしている例のひとつです。

 

*1:2019年 八坂書房

*2:j05-08.pdf (tokusanshubyo.or.jp)

*3:History(sunflowernsa.com

*4:ニクスタマル About | Los Tacos Azules

*5:遠山、2019年

*6:財団法人リバーフロント整備センター編著『誰でもわかる外来種対策~河川を事例として~』2012年