南米植物文化研究ノート

南米の植物にまつわるあれこれ。個人的な研究の記録です。

五月の空にチリを思う(チリ南部から 3)

 

桑の実摘んで思いだす 

 近所の川辺に桑の実を摘みに行ってきました。五月らしいさわやかな風に吹かれて、鳥の声を聞きながら熟した実を、時には口に運びながら摘むのは、とても楽しい作業でした。桑摘みをしながら思い出したのは、チリでのこと。ペウェン(アラウコマツ、チリマツとも)の山に行った帰り(この日のことは、また後日詳しく書きたいと思います)、一休みした場所にたくさんのモラ*1がしげっていて、それを摘みながら食べた時のことです。

 

チリのヘーゼルナッツ

 先日はマキのことを書きましたが、ほかにもいろいろな植物の実をかの地では食べているようです。そのうちのひとつ、アベジャーノ(avellano)はスペイン語ではヘーゼルナッツのことですが、ここではヤマモガシ科のGevuina avellanaを指します*2。マウレ地方からマゼラン海峡の間に分布しており、マプチェ語ではÑevuiñと呼ぶこの木の実は、生で、干して、焼いたり煮たり、粉に挽いて食べたり、葉は羊毛をコーヒー色に染めるのに使われるそうです。

▲木 20メートルの高さに達するものもあるとか。これもかなりの高さ。 ▼落ちていた実。親指の先ぐらいの大きさの赤い可愛い実のなかにナッツが隠れています。

ウグニ、ムルタまたはムティージャ

 それからマプチェ語ではウグニ(Ugni 学名Ugni Molinae)、スペイン語でムルタやムティージャ(マプチェ語は”r”の音を強く発音しないので、このように聞こえるらしい)と呼ばれる植物があります。通常は1~2m、ときには4mほどにまで成長するフトモモ科の低木で、下の写真のような可愛い白い花が咲きます。秋になるとブルーベリーをひとまわり小さくしたような赤い実をつけます*3

 この実は甘く独特の風味があって、かつては飲み物を作るのにつかわれたそうです。また、現在ではジャムを作ったり菓子の材料としてもつかわれます。チリ南部に19世紀末以降移住してきたドイツ系の移民の作る菓子が「クーヘン」として名物になっていますが、このムティージャを使ったものも人気があるそうです。

 

▲花 ▼実(まだ少し若い。2024年2月撮影)

 

チリに住むエンジニアで実業家のDeik氏がこのようなレシピを公開されています。

www.emiliodeik.cl

 一年を通して観察したら、もっといろんな食べられる実があるのだろうなと想像しています。今回の旅では、アルゼンチンで野山の植物を食べる手引きのような本*4も見つけました。チリと共通するものも掲載されています。また何かの形でシェアできたらと思っています。

 

plantasderosita.hatenadiary.jp

 

 

 

*1:zarzamora, mora 日本でいうでブラックベリー。詳細は不明

*2:マカダミアナッツもこのヤマモガシ科

*3:今回調べていて知ったのですが、すでに和名があり、チリグアバと呼ばれています

*4:Luis Rafael Volkmann "Algo más que un Monte: Revalorizando saberes y haceres"  ecoval ediciones, 2020