南米植物文化研究ノート

南米の植物にまつわるあれこれ。個人的な研究の記録です。

マテ茶の伝説、そしてカジャリ

 マテ茶の始まりにはこのような伝説があります。

 ラテンアメリカコロンブスが足を踏み入れて、植民地化が始まってからの500年の歴史『収奪された大地 ラテンアメリカ500年』*1を書いたウルグアイのジャーナリスト、ガレアーノの著書から先住民族のお話だけを抜き出した子どもの向けの本があります。*2

 これによると地上の世界を知りたいと思った月が人間に化けて空から降りてきたとき、ジャガーに襲われかけたところを助けてくれて、なけなしの食べ物を分けてくれた農夫にお礼としてマテチャノキを贈るというものです。

 また別のバージョンでは、「ジャシー」(月)と「アライー」(雲)が若い娘たちの姿をとって地上に降りてきたときに、やはりジャガーから助けてくれた猟師への恩返しとしてマテチャノキを贈り、その使い方を夢で教えたというものもあります。

 そしてこの農夫なり猟師には妻と娘がいるのですが、その娘がマテチャノキの守護神として永遠の命を得たともいわれます。ガレアーノの作品からむすびの部分を紹介します。

娘はマテ茶の主となって、世界中の人びとにマテ茶を与えて歩いた。マテ茶は眠っている者を起こし、怠け者を治し、見知らぬ者同士を仲間にした。

   パラグアイやアルゼンチンのマテ茶産地であるミシオネス、コリエンテスの両州には、マテ茶葉を収穫する労働者のあいだで、カジャリ( Caá Yarí)と呼ばれるマテの木の精がいて、ときに美しい女性の姿になって現れ、彼女に忠誠を誓い試練を乗り越えると収穫を手伝ってくれるという伝説があります。ただし、誓いを破ってほかの女性と関係を持つと女神が怒り死をもたらすといわれており、マテ茶葉を運ぶ労働者が突然の事故で亡くなったりすると「カジャリの呪い」と言われたりするそうです。

  イエズス会士が来るまでは、このグアラニの女神カジャリの力の及ぶ範囲はマテ茶よりもっと広範にわたっていたとも言われます*3。そして、初めに紹介した伝説の娘が同じカジャリという名前のこともあります*4が、月がもたらしたマテ茶という話がもっとも広く知られているようです。

 

動画は「森は私たちの命の一部」と語るグアラニの女性が登場するビデオ。美味しそうにマテ茶を飲んでいます。

[http://

Spot "Derecho al monte" from lrtvcooperativa on Vimeo.

]

 

*1:大久保光夫訳 1997年 藤原書店

*2:Eduardo Galeano "Mitos de Memoria del fuego" 2005 Grupo Anaya 『Memoria del fuego (火の記憶)』はみすず書房より邦訳がある。

*3:Adolfo Colombres "Seres mitológicos argentinos" 2000. Emecé

*4:別にカジャリから始まる伝説もある