はじめましてのショウジョウソウ
Euphorbia cyathophora トウダイグサ科トウダイグサ属 1年草
先月引っ越しをして、以前と比べると人口が20分の1の北関東某市に住むことになりました。といっても以前数年間住んでいたことのある場所。ここでは、自然の気配がより濃く感じられる気がします。夏の日差しが照り付けるこの街で、最初に見つけた新しい植物はショウジョウソウと呼ばれる帰化植物。一度ならだれかが植えたのかと思うけど、今月はもう三か所で見かけたので。
道路わきで。
何かに似ていると思ったら、「サマーポインセチア」(夏のポインセチア)とも呼ばれるそうです。クリスマスが近づくと良くみかける赤い葉が印象的な植物ポインセチアになぞらえています。ポインセチア(Euphorbia pulcherrima)はメキシコ原産。現地では3メートルほどの大きな木になるそうで、和名はショウジョウボク。ショウジョウソウの方は高さ60センチほどにしかなりませんが、小さな黄色い目立たない花が咲くところもそっくりで、花が咲く季節になると苞葉(花や花序の基部につく葉)が赤く色づきます。「バイオリン型」と図鑑などに書かれている葉の形も個性的。
この可愛さでは除去できませんね…
駐車場の脇で元気に咲いております。
↑こちらは6月に同じく市内の湿地で見たハンゲショウ(ドクダミ科)。花期に苞葉が白くなる。多年草。葉の色が変化する植物の仲間。
猩々とは?
ちなみに「ショウジョウ」という単語はいろんな生き物の名前につけられています。動物だとショウジョウガイ、ショウジョウエビ、ショウジョウインコ、植物だとショウジョウバカマ、ショウジョウスゲーざっと百科事典で引いてみただけでもこれだけ出てきます。
この「ショウジョウ」は漢字で書くと「猩々」、現代の中国語ではオランウータンを指すそうです。古くは中国の伝説に出てくる想像上の生き物で、日本の能楽にもしばしば登場します。水の中に住み、お酒や踊りが好きなのだとか。そのものずばりのタイトルがついた演目がこちら。
どうやら、上の動画のような「猩々」の髪の色の連想からか、赤い部分をもつ生き物を「ショウジョウ~」と名付けることになった模様。というのも、じつは中国では猩々の毛の色は赤と決まっていないらしいから… 「猩々イメージの変遷」という論文の中で中国出身の能楽研究者の王冬蘭さんは、中国語の文献では猩々の毛は黄色とも青とも書かれていること、棲んでいる場所も水中とは限らない、また「霊獣」というよりも「怪獣」として扱われているなどの点をあげ、”「猩々」の作者は中国の文献あるいはその翻案作に基づく猩々の怪獣のイメージの上に、作者の想像力を発揮して、めでたい霊獣のイメージを加えて「猩々」を創作したのだろうと推測される”と書かれています。*1
まだまだ新顔
図鑑によって少しずつ違いますが、原産地は北アメリカ南部(メキシコも地理上の区分は北アメリカ。しつこいようですが…)からアルゼンチンの北部という点はだいたい一致していて、「世界の熱帯から亜熱帯に広く帰化している」*2そうです。「明治時代に渡来し観賞用に栽培され」*3「沖縄や小笠原では日本に返還になるずっと以前から野生化していて、かなり古い時代に帰化したものだと考えられている。最近では本州でも栽培品が逃げだしたと考えられるものが道端などで見られる。」*4 と2006年の図鑑に書かれていました。
「最近では」とあるので気になったのですが、この植物を以前ここに住んでいたときに見た記憶がないので、ひょっとするとその後出現したメンバーなのかも。近所の図書館にあった図鑑などで調べてみたところ、『帰化&外来植物見分け方マニュアル950種』*5(秀和システム、2020年)、日本帰化植物写真図鑑(全国農村教育協会、2001年初版発行、11年版を参照)、『日本の帰化植物図譜』(アボック社、2009年)には載っていましたが、『原色日本帰化植物図鑑』(保育社、昭和51年=1976年)にはありませんでした。まだまだ当市では(も)新しいメンバーのようです。今後の推移を見守っていきたいと思います。
以上はショウジョウソウの載っていた図鑑類。