南米植物文化研究ノート

南米の植物にまつわるあれこれ。個人的な研究の記録です。

マルメロ Cydonia oblonga 今日はデザートのお話。

バラ科 マルメロ属

 初めにお断りしておくと、これはアメリカ原産の植物ではありません。1590年の記録によると、アメリカスでは、「(エスパニャ=スペインから移植され)すべての地方、およびヌエバエスパニャ*1で産し、半レアルで、五十個えらびどりだった」*2とのことです。

 もともとは西アジア原産で、日本方面に渡来したのは、寛永11年(1634年)。和名はポルトガル語"Marmelo"起源だとか。*3 果肉を砂糖で煮ると、どっしりとした羊羹のような菓子Dulce de membrillo(発音はドゥルセ・デ・メンブリージョ。「マルメロの菓子」の意味)になります。ドゥルセ・デ・メンブリージョ中南米の広い範囲で食されていて、薄く切ってチーズといっしょにデザートとして食べます。甘酸っぱさとクリーミーなチーズの味が合わさって、とても美味しいです。グアバやサツマイモも同じように食されます。

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▲盛り付けが下手でお恥ずかしいのですが、イメージをお伝えいたしたく。
 

 熊本にある加勢以多という和菓子は、もとはポルトガルより伝わったマルメロの菓子”caixa da Marmelada”[ caixaは「箱」の意味。弁当箱につめたような形だから?]すなわちドゥルセ・デ・メンブリージョを薄く切り、もち米でつくったウエハースのようなもので挟んだ菓子です。(現在はマルメロではなくカリンを使用しているそうです。)*4  

 マルメロとよく混同されるカリンは中国原産で、学名Pseudocydonia sinensis、バラ科カリン属に分類されます。カリンもマルメロも、愛らしい花が咲いて香りのよい黄色い実がなるのですが、別のものです。カリンはお酒やのど飴でおなじみですね。カリンとマルメロのちがい、見分け方について写真入りで説明されているサイト(日本語)はこちら

 ちなみに手元にあるアルゼンチンの料理本によれば、ドゥルセ・デ・メンブリージョを作る時は、マルメロの果肉(皮や種をとった重さ)1キロあたり3/4キロの砂糖を使うようにと書いてあります。皮や種を煮て、よりとろみのあるゼリー(jalea)を作るために使うこともできるのですが、このときも煮汁1リットルに対して3/4キロの砂糖を使うと書いてありました。*5 youtubeなどにもレシピ動画があがっていますが、どれも砂糖は果肉の重さの3/4~同量ぐらいの配合のようです。歯にしみる甘さを体感していただくにはいいかもしれません。

 

 


Dulce de Membrillo Tradicional.

 上の動画は砂糖が80%と言っています。煮え具合の指標がひとめでわかるのでおすすめ。生で皮をむいていますが、レシピによっては一度ゆでてから皮をむくものもありました。そのほうが手は疲れにくいかもしれません。このゆで汁をゼリー(jalea)に使うこともできるようです。マルメロがオーガニックのものだと安心ですね。

 

 

*1:1590年当時スペインが植民地として支配していた地域の総称だが、ここでは現在のメキシコを指している様子

*2:アコスタ、第4巻31章

*3:新分類牧野日本植物図鑑

*4:加勢以多 - お菓子の香梅 (kobai.jp)

*5:Elichondo, Margarita. La comida criolla: Memoria y recetas. Ediciones del sol. 1997